投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

是奈でゲンキッ!
【コメディ その他小説】

是奈でゲンキッ!の最初へ 是奈でゲンキッ! 56 是奈でゲンキッ! 58 是奈でゲンキッ!の最後へ

特別興行 がんばれ田原くん! 『是奈と愉快な中間たち 2』 前編-5

「何言ってるんだお前! 腹痛なんかよりも、もっと凄い人体改造受けてるんだろ! 注射が痛いのくらい我慢しろっ!!」
 と、やや混乱しているのか、嘉幸はそう言って都子を叱り付けると、かまわず携帯電話で119番をプッシュしていた。
「あ〜もしもし、もしもし、もしもーし!」 
 だがなぜか、電話が通じない。
 そんなに山奥でもない、ただの公園のはずなのに、嘉幸も一瞬首を傾げもする。
「って言うか! 電池が切れてるやん!!」
 どうやら嘉幸、携帯電話のバッテリーを充電するのを忘れていた様子である。役立たずの携帯電話を握り締めて、ひとしきりに地団駄を踏んでいた。
「痛いよー! 死んじゃうよー! うへぇ〜ん!!」
 そうして居る間にも都子の腹痛はさらに激しくなり。って言うか、けっこう元気だったりもするが。
「ああーもう、しかたないなぁ!」
 嘉幸は携帯を使っての連絡を諦め、都子に背中を向けてしゃがみこんだ。
「へっ!」
 それを見て都子は、呆然ともする。
「へっ! じゃないよー! 何やってるんだ早く乗れ!!」
 そんな都子に向って、嘉幸は後ろ向きのまま、自分の背中を指差し、手をぱたぱたさせていた。
 そして。
「いいの?……」
 そう言いながら都子が嘉幸の背中に、恐る恐るも負ぶさると。
「これも上司の務めだろうからな。確か下の駐車場に公衆電話があったはずだ!」
 言いながら嘉幸は都子を背負うと、丘の上公園の山頂広場から、下の駐車場へとつづく道を駆け下り始めたのだった。


 市外の外れにある丘の上公園、文字通り小高い丘の上を切り開き整地された普通の公園である。
 さほど高い山って訳では無かったのだが、それでも山頂から山麓まで、直線にしたらせいぜい150メートル程はあるだろう。山麓には広い駐車場もあり、ここを訪れた人々のマイカーでもって、たいがい埋め尽くされていた。
 山頂の公園と駐車場の間にはダラダラと続く九十九折(つづらおり)の長い遊歩道があるだけで、他に道は無く、山を降りるには、道のりおよそ1キロのそこを行く以外に方法はないのである。 
 秋の紅葉シーズンともなると、連休と相まって此処を訪れる人達の数も多い。嘉幸はそんな人達で溢れる長い遊歩道を、都子を背負って一生懸命走っていた。
「すみませーん! 通してくださーい! 急患なんでーす!!」
 そう叫びながら人ごみをかき分けて突き進む嘉幸。
 清美も後からついて来る。
 さほど急ではない下り坂だが、駆ける足にも自然とスピードは付いて来る。直線ではそれでも良かったが、そのままの勢いでは、カーブが曲がれない。
 指示された訳ではなかったが、清美は嘉幸に背負われた都子の短いデニム地のスカートの裾を引っ張り、ブレーキをかけていた。
 嘉幸は少し体をひねって、アウト・イン・アウトな走行ラインをドリフトぎみに走り抜けると。都子もまた遠心力で外へ飛び出さないようにと、体をカーブのイン側に傾けもする。三人はなかなか絶妙なコンビネーションでもって、九十九折の坂道を勢い良く駆け下って行った。……って言うか、端から見れば遊んでいるようにしか見えない三人でもあった。


 三人が遊歩道を中間地点ぐらいまで降りてきた時である。
「お前っ! ……大丈夫かぁ」
「あなた大変! 生まれそうよ!!」
「ええー! こっこんな所でかー! どどど……どうしよう。携帯置いてきちゃったし!」
 なにやら前方で、うずくまって苦しんでいる女性と、おそらく旦那さんだろう、気遣っている男の人が見えたりもする。
 どうやら若いご夫婦のようだが、奥さんの方はもう直、赤ちゃんが生まれるらしい。焦っているのか旦那はどうしていいやら解からず、オロオロするばかりの様子である。


是奈でゲンキッ!の最初へ 是奈でゲンキッ! 56 是奈でゲンキッ! 58 是奈でゲンキッ!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前