光の風 〈貴未篇〉前編-9
未禄
「…父さん。」
貴未は膝から崩れ落ちた。そこは紛れもない未禄の墓。
見たくもない、受け入れたくもない現実が彼の視界を広く支配していた。
それは事実。
堪え切れない悲しみが貴未の心と体を支配していく。貴未は墓石に近寄り抱きしめて大声で泣き叫んだ。
恥ずかしさなんてない、ただ二度と手にする事ができない父に向かって泣いた。
初めて見せる貴未の泣き姿に日向は泣きそうになった。自分の持つ記憶の中で、これほどまで悲しそうに泣く姿を見たことがない。悲痛の叫び。
少なくとも貴未は大切な人を３人も亡くしている。しかもこの数時間の間に一気に。日向には貴未の声がたまらなかった。
首から下げている〈永〉の中にいるマチェリラの存在も今は忘れているだろう。貴未はただ泣いていた。
長も日向も、貴未に触れる事ができず、ただ彼の傍にいることしかできなかった。
あれから少し経ち、貴未の気持ちも落ち着いた頃。黙ったまま傍にいる長に向けて貴未は尋ねた。
「長、あれからどの位の時間が経ったんですか？」
地球では200年もの月日、しかしカリオでは長は生きている。カリオ人が長寿という話は聞いた事がない。きっと時の流れが違うのだろうと貴未はぼんやり考えていた。
「それはお前が成長した分の時間だ。」
長は明確な数字は告げずに答えた。
貴未は涙を拭い、立ち上がった。
「長、永は戻っていますか？」
「はるか？お前達、一緒ではないのか！？」
長の声に貴未は固く目をつむった。永はここにはいない、手がかりもない。複雑な空気が辺りを包む。
永は失われたままだ。
「幼い頃に別れたきりです。」
長が落胆の声を放った。貴未は深呼吸をすると背を向けていた体を向き直した。貴未の顔は笑っている。
「分かりました。引き続き永を探します。」
迷いはなかった。永が死んだという根拠はない。どこかに捕らえられているのなら、助けられるのは貴未しかいない。
貴未は永を捜し出すことを決めた。
「長、あと１つ。光の精霊の居場所を教えてください。」
それはカルサとの約束、新たなる戦力だった。突然の申し出に長は驚いていた。
「光の精霊だと？貴未、お前は一体何をしているんだ？」
マチェリラのように、長は異常なまでの反応を示した。きっと長は何かを知っている。
「オレが仕えている王が欲しているんです。」
長は貴未の言葉を理解しようと、すぐには思いを口にはしなかった。目を貴未から日向へと移し、何かを感じ取る。