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ヒトナツ
【コメディ 恋愛小説】

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ヒトナツA-5

……と、いうわけで。

俺と桜さんは今、都心の遊園地へと来ております。

いやあ、ベタですね。ベタベタ。

遠くに見えるジェットコースターが落下すると、キャー、という黄色い声がここまで聞こえる。
「あれ、楽しそうですね」
「そうだね」
見たところ、桜さんは遊園地なんて経験がないみたいだ。
さすがブルジョア。

まあ関係ないか。

それにしても、遊園地なんて安易だったが、ここに行き着くまでは結構な苦労があった。
とても渚には聞けないし、ババアは論外。
丸一日、必死で悩んだ結果、ふと雑誌に載っていた“夏のデート特集”に目がいった。
もちろんランキング上位には海や祭なんかが載っていたが、初めてでも安心なのが遊園地ということで、決定。
特に初めてのデートだと効果大だそうだ。

「では、行きますか」
「はい!」
す、とさり気なく手を差し出すと、桜さんは躊躇なく手を握ってくれた。

ふふ、作戦通り。

今日で一気に親密になってやんぜ。

「桜さんは、遊園地は初めてですか?」
歩きながら訪ねる。
無論、入場料は俺が出した。
いくら彼女がお金持ちでも、必ず男が率先する。これ常識。

って雑誌に書いてた。

「はい…恥ずかしながら」
桜さんはそう言ってはにかむ。
「じゃあ、今日はたくさん楽しみましょう!」
「はい!」


***

実に楽しい。

早くも入場して一時間が経過しようとしていた。
とりあえず、近場から攻めてみようということで、入口から一番近いゴーカートに乗ってみたのだが、桜さんはとてもはしゃいでいた。

俺は運転免許を持っているから無難な運転だったが、桜さんは車の運転席に座るのが初めてだったらしく、きゃあきゃあ言いながらハンドルを右に左に切りまくり。
壁に激突したこと数十回、どんどん後続に抜かれてはいたが、桜さんは笑ったままだった。


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