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インスタントコーヒー。 
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インスタントコーヒー。 -1

明け方 
インスタントコーヒーにお湯を入れる。 
備え付けのスティックで透明とブラウン色した粉末をかき混ぜる。
ほのかに匂う大好きな香り。 
僕の嗅覚を甘く撫でる。

まだ我慢。 

物思いに耽りながら 

調和の取れたあの色になるまで優しくまぜる。 

そしてミルクをゆっくりと。 

この香りは幾つかの季節を思い起こさせる。 

例えば机に向かっていたあの真冬。 

または深夜の車内。 

明け方のあの空の下。 

様々な気持ちや思い出がミルクの白が描く渦のように廻りだした。 

あれから僕は立ち止まらずに進んでいるだろうか。 
あれから僕は何かを得られただろうか。 

幾つもの選択肢を過渡期をうまく渡れただろうか。 
そしてカップに口をつける。
苦いコーヒーは父のような厳格さ。 

底に溶け切らず残った甘味は母の愛情。 

そんな慈しむべき対象を幾つか無駄にしてきて

採点するのなら 

合格点には程遠いこの道だけど、 

このコーヒーは何かを許してくれるような感じがした。 

季節は巡って、また同じ季節がやってきても 

何も求めない、いや求めてこない優しさを感じた。 
カップを雫が滑り落ちる。 


深くため息。 

そして一気に流し込んだ。 
口に広がるいつものそれは、
少しの切なさと哀愁を感じさせ、
そういえば余裕がなかった今日も昨日も。 

この最後の一口にさえ、ゆとりも持てない僕。 


そんな気持ちになれたのも 
あの時、あの季節といまが重なったからか。 

それともこの変わらない香りのせいか。 

ネクタイを緩める。 

ふぅとため息。 


きっとまたこんな気持ちを味あわせるのだろうか。 

こんな季節とインスタントコーヒーに。


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