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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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高崎龍之介の悩み 〜女難〜-17

「あの二人、うまくいくかなぁ?」
 心配顔の美弥だったが、手の方は龍之介の頭を撫でていた。
 美弥にしっかり抱き着いた龍之介は、おとなしく頭を撫でられている。
「あぁ……恐かった」
「昨日の今日で、良く踏ん張ったね」
 こうしていると恋愛感情よりも保護欲を刺激されるのは、自分だけだろうか。
「ね……あの二人、うまく行くと思う?」
「うまく行ってくれないと、僕が困る」
 トラウマなんか二度と刺激されたくないと言わんばかりの態度に、美弥は苦笑する。
「……龍之介」
「ん?」
「頑張ったご褒美」
 美弥は龍之介の頬に手を添え、顔を上げさせた。

 ちゅ。

 一秒。
 二秒。
 三秒。
 四秒。
「……ん」
 美弥が顔を離して様子を窺うと、龍之介は真っ赤な顔をしている。
「……これから、もっと頑張れそう」
 美弥の苦笑が広がった。
「龍之介って……中身は意外と欠点だらけだよね」
 もう一度キスをし、美弥は微笑む。
「でもそういう欠点だらけの龍之介の方が、完璧そうに見えた頃より好きよ」
 美弥の言葉に、龍之介はぎょっとした。
「か、完璧そう?」
「うん。去年の今頃はね、そう見えてた」
 美弥は、照れたように笑う。
 高崎龍之介という人物は勉強も運動も人並み以上にできて顔も嫌みなく整い、その風貌はあくまでも爽やかで凛々しい。
 さらに言えば……兄の竜彦もそうだが弟の龍之介もまた、周囲から不思議と愛される『何か』を生まれながらに備えていた。
 当人はいたってナチュラルなくせにこれだけできているスーパー人間を『完璧そう』だと思ったとしても、何ら不思議ではない。
 だが実際の龍之介はというと、意外とすけべだしすぐに理性がプッツンするし自分以外の女は泣く程苦手だし、どこをどうやっても『完璧』とは言えない。
 だけどそういう人間臭さが、美弥には愛しい。
 半年以上付き合って少しずつアラが見えて来ても、幻滅を感じるどころか龍之介がますます好きになる。
「どこをどうやったら、僕が完璧そうに見えるんだよ……」
 龍之介は呟いた。
 対する美弥の答は、あっさりしている。
「全部」
「はぁ……」
 龍之介は、頬を引き攣らせた。
「さいですか」
「だあぁって」
 美弥は龍之介の引き攣った頬へキスを落とす。
「実際そう見えてたんだから、付き合う前には敬遠してたのもしょうがないじゃない?」


 動揺しきった声で、菜々子は尋ねた。
「も……もしも、もしも、もしもよ?OK出さなかったら……あたし達いったい、どうなるの?」
 真継は、菜々子を抱き締める腕の力を緩める。
「言ったろ?俺はもう、お前さんの幼馴染みでもセフレでも何でもないって。高崎先輩と付き合おうが付き合うまいが、それは変わらない」
 その言葉が、菜々子の胸にグサッ!!と突き刺さった。
「やだ!!」
 一番素直な言葉が、心の中から溢れ出る。
「やだやだやだ!!真継が傍にいてくれないなんて、絶対絶対絶対嫌!!」
 緩んだ腕の力がまるで自分から永遠に離れてゆく真継を象徴しているようで、菜々子は真継にすがりついた。
 十五年……ほぼ同じ時期に同じ産婦人科で生を受け、傍にいてくれる事が当たり前になっていた男。
 自分に初潮が来てから好奇心と興味で互いをいじくり回し、なし崩しに処女と童貞を破った男。
「菜々……」
 囁くような呼び声に、菜々子は体を震わせる。
 幼い頃はボーイソプラノだった声はいつの間にか変声を終え、ぐっと大人びていた。
「俺に、傍にいて欲しいか?」
 ぶんぶんこくこくと、菜々子は何度も頷く。
「だったら」
 真継の腕がぐっと、菜々子を引き寄せた。
「俺にどうして欲しいか、言ってくれよ……」
 真継の腕の中で、菜々子は叫ぶ。
「傍にいてっ……!」
「他には?」
「離れちゃやだっ……!」
「あとは?」
「ま……真継とっ……まつぐとっ……」
「と?」
「付き合うからっ!!だからっ……だからお願い離れちゃやだあっ!!」
 決定的な叫びを聞くと、真継は最高の笑みを浮かべた。
「今までも……そしてこれからも。ずっと傍にいるよ、菜々」


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