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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第11章-4

油良の持つ不思議な鏡を通って、あっという間に移動したのだ。飃に寄れば、「かがち」すなわち蛇の妖怪たちには、鏡を使って昔から人間にお告げを与えたり、過去や未来を見せて占う能力があるのだという。

不思議だ…だけど、不思議がる暇は無かった…何しろ極寒だ。不思議がらなくたって死にはしないが、この寒さの中では気を抜いた瞬間骨まで凍りそうな気がする。



風は、刃物のような鋭い冷たさで、容赦なく吹き付ける。

その風の冷たさをいっそう強めているのが、目の前の光景だった。今にも崩れ落ちそうな空き家は半分以上雪に埋まり、雪かきなどするものも無い道路は、完全に見えなくなっていた。

「ゴーストタウンだ…」

「悪かったわね。」

こんな寒さの中でもへそ出しルックの氷雨が心外そうに言う。「ゴースト」にしろ「タウン」にしろ、横文字に興味の無い飃は、話に耳を傾けず、しきりに鼻をひくひくさせている。熱さには弱いけど、寒い分にはいくら寒くても平気な飃は、こんな気候の北海道にいて、いつもの格好に黒いトレンチコートを羽織っただけという軽装だ。こっちは見てるだけで寒くなるんですけど…ぶるる。



町、いや、間に見える範囲は一面、まっさらな雪で覆われていた。こんなに見事な雪景色は見たことが無いので、実はひそかに感動している。

風は冷たいが、雪は降っていない。空は白い雲に覆われている。いつでも雪の女王のそばにいて、号令がかかり次第人間どもに冬の実力を見せ付けてやれるとでも言いたそうに。

こんな昼間だというのに、人影どころか、足跡すらないのはどこと無く奇妙だった。

「ま、『ゴースト』ってのはあながち間違いじゃないけどさ…」

雪を掻き分けながら、ようやく分速2メートルで進む私を尻目に、彼女は雪の上をさくさくと進んでいく。

「この町には、もう人間はほとんど住んじゃいないんだ。いや、全く、か。」

さびしそうに、最後の言葉を付け足す。昔の賑やかだった時代に思いをはせているのだろうか。

「いま、この村には、人間たちに長年使われて魂を持った付喪神達が、打ち捨てられたまま、なす術も無く澱みの影に怯えてる。あたしたちみたいな雪妖(せつよう)なら少しは戦う術もあるけど…」

そこへ、向こうから幽かな足音が…

「お嬢!油良殿!」

私の腰のあたりまでまである雪の上を、まるで水切りの石のように軽い足取りでかけてくるものが居た。真っ黒な隈取が目を覆っている。一見したところ、限りなく狗族に近い。

「朔(さく)!」

氷雨が嬉しそうにいう

「さくら殿、飃殿、これなるは朔。これでもれっきとした狸狗族だ。朔、この人が噂の長柄使いだよ。」

朔は、茶色の髪をこれでもかというくらい逆立てて飃に見入った。その目は賞賛と尊敬にきらきらと輝いている。


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