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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第11章-3

「あなたは…」

丸い目、その眼球を立てに貫くような鋭く、細い瞳。青白い肌、鼻梁は無く、鼻があるべきところには、切れ目のような穴が一対。

「蛇(かがち)か。」

飃が言う。彼はこくりとうなずいた。

「儂は、山形出羽の羽黒山より参った蛇…呪われの長柄と盾を振るうお二人に、ぜひお願いが有って参った次第…」

皺一つない顔に似合わず、年季の入った話し方をする彼の声はとても滑らかで低かった。

「出羽の羽黒山…?蛇妖の里で知られる、あの沼の近くのものか?」

飃が聞く。

「左様。あなたとは直接お会いしておらぬが、儂もついこの間まで、あの忌まわしい牢獄にいたのでな。それであなたのお噂を耳にした。」

忌まわしい牢獄…澱みが、妖怪や神族の者たちを捕らえて、その生気を餌とするための牢獄だ。あの後、颪さんが所属する狗族の組織「青嵐(せいらん)会」が、あそこをめっちゃめちゃに破壊してくれた。跡形もないほど。

「それに、あそことは関係がなくとも最近はあなたのお噂を耳にすることは多い。」

意味深な言葉だ。私たちの澱み討伐の噂が、遠く山形まで及んでいることを示唆している。

「かつては神と崇められし我々も、いまや人の言う『妖(あやかし)』に身を落とし、人に見られぬよう細々と暮らしを営む他ないのじゃ。」

あなた方のように。と、彼の目が告げる。飃が、良くわかるというようにうなずく。

「それで、頼みとは…?」

「付喪神たちのこと。」

油良が答える。その名のとおり、油のように滑らかな声だ。

「ツクモ…って、古くなったものに魂が宿るって言う、あの?」

油良がうなずく。

「妖怪、神、いや澱みどもにいたるまで、元は魂を持たないただの「概念」だった。人間の感じる恐怖や、畏敬、感謝、願望…そういったもの。それを基にして、人間が自らのもつ想像力で作り出し、信じ続けたことで我らは形を成した…儂らも一種の付喪なのじゃ。」

話すたびに、赤く細長い舌がちろちろとのぞく。

「その付喪たちが、いま大勢孤立し、澱みどもの標的になっている地がある。」

氷雨が口を開いた。

「あたしの故郷なんだ。」





その日のうちに、私たちは北海道に居た。


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