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Mermaid
【ファンタジー 恋愛小説】

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Mermaid 〜紫の姫〜-1

むかしむかし、今から三百年ほど昔。
人魚の国のお姫様が王子様に恋をして、人間界に行かせてくれと、魔女に妙薬を貰いにいった。
足が生えるその薬の対価は、彼女の美しい、透き通るような声。
王子様にも愛してもらうことができれば、人間になれる。
しかし、言葉を失ってしまった彼女はあまりに無力で。
隣国の王女と結婚してしまった王子を、愛するが故に殺めることもできず・・・。
人魚姫は海の泡となり、儚く消えた。


「ドルチェ、分かりましたね。大魔女様には、しっかりご挨拶していくのですよ。」
「ん、だいじょぶ。かあさま。」
深い深い海の底。三百年前と変わらない位置に、その宮殿はあった。
そこから今まさに、人魚国始まって以来五十代目の人魚姫が人間界へ旅立とうとしている。
彼女の波打った長い髪と、真ん丸の瞳は澄んだ紫色。すっと通った鼻筋に、桜色の唇。
お人形のような愛らしい容貌は、先祖代々受け継がれたものであるが、しかし。
「どうせ行くなら私がその化け物ばあさん、取っちめてやります。先祖の恨みは果たしますからご心配なく。」
「ドルチェ、またそんな言い方して。」
鈴を転がすような声とは似ても似つかない物騒な娘の物言いに、王女はその美しい眉をひそめた。
その胸の内は、大切な一人娘を呪われた旅に出さなければならない、という切なさで張り裂けそうであるが、運命には逆らえない。
「――お元気で。必ず、戻って参りますから。」
自分に言い聞かせるようにそう呟くと、ドルチェは紫の立派な尾で水を蹴った。
宝石のような水泡が立ち上る。
勢いよく泳ぎだし、彼女は宮殿を振り返らなかった。


三百年前、三十五代目の人魚姫・アランが初めて人間を愛し、海の泡になってからというもの、宮殿の人魚達は彼女が犯した禁忌を償うため、残酷な運命を強いられてきた。
アランに妙薬を渡した魔女が、宮殿の権力を弱めるために、人魚が女の子しか産めなくなる魔法をかけたのだ。
必然的に、五十年くらい経ったところで宮殿から男の人魚は消え去ってしまった。
これでは我々が絶滅してしまう。人魚たちの懇願に胸打たれたか、魔女は一つの解決策を編み出した。
アランが陸に上がったのと同じ、十五の歳になると女の人魚は妙薬を授かり、人間界へ送られる。
そこで人間の男性との間に子を宿し、再び海へと帰ってくるのだ。
ドルチェが今向かっているのは、まさにその不死身の魔女・カルムの館だった。


「おや、いらっしゃい。可愛い人魚のお嬢ちゃん。」
宮殿よりも更に深い、荒れた海の底にその館はあった。
陰気な植物がからみついた門をくぐるとすぐに、ドルチェは大きな広間に通された。
奥には祭壇が設けられ、一番高い位置の玉座に黒いローブをまとった人物が鎮座している。
荘厳な雰囲気を醸し出しているその人こそ、大魔女カルムだろう。
薄暗くて顔はよく見えないが、しわがれたその声は、室内の広さを感じさせないほどよく響いた。
「――五十代目、人魚国の姫ドルチェだ。・・・分かったらさっさと『アシ』とやらの生える薬を出せ。」
姫君とは思えない調子に侍女達はまぁ、と囁きあったが、カルムはこりゃまた気丈な姫様だ、と笑うと玉座に座りなおし、神妙に問うた。
「・・・・ところでね、あんた人間界に行ったら何をするつもりだい。」
「何するって・・・そりゃ適当に男をひっ捕まえるしかないだろ。」
ほぅ、と腕組みするカルム。今更何を言うのだ、このばあさんは。ドルチェは一気に捲し立てた。


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