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神の棲む森
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神の棲む森-9

Epilogue-2(misugionanotherworld)
病室の窓から、優しげに陽光が差し込む。その光を眺める俊一の横顔を、私は眺めている。
それだけで幸せ。
「ねぇ、俊一」
「何?」
「本当に貴方、ずっとここで寝ていたの?」
「またその話かい?ずっとこの病室にいたよ」
「でも私、貴方に会ってたのよ。貴方が寝ている間に」
俊一はベットから起き出して、背伸びをした。もう体はほぼ完治し、来週には退院できる身だ。
「そう。それじゃあ、僕がもう一人いたんじゃないかな?」
う〜ん、と腕を広げながら言った。
「ふざけないでよ、もう」
「だって現実にいたんでしょ?」
「それは・・・そうだけど」
「世の中は僕らが考えているよりも、きっともっと複雑なんだ。理解できないならば、感じればいいのさ」
「なんか達観してるわね」
「まぁ一度、死にかけてるからね」
またベットに潜り込み、俊一は続けた。「マスター、コーヒー淹れてよ」
「分かったわよ、インスタントね」
「砂糖なし、クリープあり、あと愛情たっぷりで」
「馬鹿」
言ってパイプ椅子から腰を上げる。
「そういえば、私と初めて会った日、何か本を読んでたみたいだけど。タイトル覚えてる?」
俊一は得意げに答えた。
「マディソン郡の橋。恋愛小説だよ」


Epilogue-3(syunichionthisworld)
あまりの陽気の良さに、俊一は空を見上げた。その青のなかに礼子の顔が浮かんだ。
彼女は上手くやっているだろうか。
あっちの僕は目が覚めたその瞬間に、彼女を抱きしめてあげただろうか。
もう知る術はないけれど、そうだったら良いと思う。
「俊一」
大学からの帰り、友人に声を掛けられる。
「今から何処いくん?夜から俺んちで飲まん?」
「あぁ、行くよ。ちょっと喫茶店でくつろいでからね」
「分かった。じゃ、家で待ってるよ」
言って彼は原付のエンジンをつけた。環境に悪そうな黒い排気を出しながら、遠ざかっていく。
運命、と僕は思う。
人と人が出会う。
それを偶然と捉えるのか、必然と捉えるのか。
僕は前者だった。
今でもそうだ。
いや、今だからこそ、その思いは強い。
礼子、君と出会わないことがこの世界の僕の運命だと認めたくない。
もし、それでも。
喫茶店の前に佇む。――― 『lagrande』という、その場所、この時。
もし、それでも運命だと、君が言うのなら。
ドアを開ける。
――― カランカラン
僕らはきっと出会う。
そう、僕らはきっと出会う。
「いらっしゃいませ」
クラシックの音楽とコーヒーの香りを乗せて、声は響いた。


神の棲む森 了


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