Penetration-6
それからは週に一度は喫茶店を訪れるようになった。
季節は夏から中秋へと移っていった。
女の子は会う度に明るさを増し、仁科にとって魅力的に映った。彼の頭の中では、彼女の存在が徐々に浸みわたっていった。
ある晩秋の日、仁科は意を決して喫茶店へと向かった。理由はひとつ、彼女をデートに誘うためだ。
いつものようにドアーを潜る。しかし、そこには別の女の子がマスターと共に待っていた。
「ああ…あの娘ね、3日前に辞めたんですよ」
マスター曰く、就職先が決まったからだそうだ。
「なんでも卒業までに、もう一度建築を見直したいからって」
「…そう……」
「あ、そうそう」
マスターが思い出したように仁科に伝える。
「あなたによろしくって言ってましたよ。あなたのお陰で建築への造詣が深まったって」
仁科はマスターにお礼を言うと、喫茶店を後にした。
ー翌年ー
また蒸し暑い季節がやってきた。仁科は4月に念願の設計へと異動したばかりでなく、リーダーへと昇格した。
ほとんど会社に居る事が無くなり、いくつかの現場を動き廻る日々をすごしていた。忙しさは営業廻りの比ではなかった。
だが、仁科は苦にならなかった。自分の望んだ仕事を存分にやっているという充足感が彼を満たしていた。
仁科は喫茶店での出来事などすっかり忘れていた。
ある日、出勤するとマネージャーが仁科を待っていた。
「仁科君。君に新人を預けたいんだが」
「はあ…」
仁科にとっては迷惑な話だった。ただでさえ忙しいのに、このうえ研修を終えた新人のお守りとは……
仁科はパソコンを立ち上げながらディスプレイに目を奪われて新人の方など見ていなかった。
パソコンが立ち上がる。
「サグラダファミリアですね」
一瞬ドキリとした仁科。その声に聞き覚えがあった。
おそるおそる振り向く。そこには喫茶店の女の子が立っていた。
「お久しぶりです！……仁科さん」
そう言うと女の子はペコリと頭を下げた。
「マスターから就職先が決まったって聞いたけど……」
「なんだ、君達は知り合いだったのか？」
マネージャーが仁科に訊いた。