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空、泳ぐ
【失恋 恋愛小説】

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空、泳ぐ-1

まるで、ひとつなぎの映画を観ているようだった。

夏も終わり日差しも和らいで過ごしやすくなった季節の事。風が少し冷たくなってきたけど、まだ寒いと感じる事はなかった。

何をする訳でもない、大きな窓を開けて新しい空気を取り込む。さわやかに吹く風が部屋の空気を揺らし、カーテンを舞わせた。まだ夏の名残が音を奏でる。

「風鈴、片付けなきゃ。」

窓を開けてベランダに下りる事無く手を伸ばして風鈴を取り入れた。部屋の中では音を奏でても何だか弱々しく思える。

何だか切なくて苦笑いをしてみせた。

これも彼との思い出。

この一人暮らしの部屋、至る所に彼の面影が潜んでいる。例えば窓を開ける動作1つにしても、よみがえる記憶は後を絶たない。

風鈴を持ったまま、部屋の真ん中でたたずんでいる。もう涙なんかは流れなかった。

とてつもない喪失感は、たった1つの感情しか出さない。

私はもう、それを乗り越えていた。

風鈴を軽く撫でて机の上に静かに寝かすように置く。ベッドの横に座り、両手を伸ばしてゆっくりと体を預けた。

布団が暖かい。

顔を横に寝かせ、伸ばしたままの右腕に頭を乗せた。左手は布団の感触を確かめるように円を描いて動いている。

前は息もかかりそうなくらい、近くに彼がいた。同じように頭を寝かせ、手を繋ぎ微笑みかけてくれた姿はもういない。

カーテンが風に舞う。ふと視線を上げると、いつになく白い雲が映える青い空が広がっていた。

今日はいい天気だ。

マンションにも気持ちいい風が入るくらいだ、空はもっと風が強いらしい。様々な形をした白い雲が目に見えるほど早い動きを見せていた。

ただ言葉なく見惚れてしまった。



まるで、あの雲を掴むような恋だった。


ただ好きになって見つめていた。それだけで幸せだった。

彼を想い、嬉しくなったり切なくなったり、そんな生活で私は満たされていた。やがて目が合って、話をする機会が増えて。

傷付くのは分かっていたけど止められなかった。どうして人は欲張りなのだろう。見ているだけじゃ駄目、いまここに、いま目の前にいるのに。

だからこそ。彼の心が欲しいと思ってしまった。手を伸ばして触れられるのが体だけじゃなくて、心も触れられたらいいのに。


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