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忘れてしまった君の詩
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忘れてしまった君の詩-13

21 「コホンッ」と、咳払いを一つ、
「どう、かな?」
 問い掛けた僕。彼女は赤くなった顔を隠すように俯くと、ゴニョゴニョ言い始めた。
「……」
「何?」
「そんなこと、急に言われても……」
「嫌かな?」
 彼女は激しくかぶりを振った。
「嫌じゃない。嫌じゃないけど……」
「困る?」
 彼女は散々迷った挙げ句、コクンと頷いた。
 僕は大きく息を吐いた。 それは安堵のため息だったのだけれど、彼女には悪い方に伝わったらしい。
 今にも崩れそうな瞳で、僕のことを見上げてくる。 僕は安心するようにと笑顔を浮かべて、彼女の髪を撫でた。
「怒ってるわけじゃないよ。ただ、緊張の糸が切れただけ」
「緊張、してたの?」
「そりゃするよ」
 僕は肩を竦めた。
「今まで、散々追い掛け回しても逃げられてた相手にプロポーズするんだから、しないわけないじゃない」
「……」
「あっ……別に先生を責めてるわけじゃないよ?その辺、勘違いしないでね」
「うん」
 彼女の返事に安心した僕は、彼女の頭をもう一撫でしてから屈めていた腰を真っすぐに戻した。
 長い間、無理な体勢を保ったせいで、骨がボキボキと軋んだ。
 耳を澄ませば、雨音と一緒に、廊下を歩く誰かさんの足音。
 僕はもう一度、彼女に目線を戻した。
「とにかく、答えは急がないから、ゆっくりと考えてみてよ。ただ……」
「……ただ?」
 不安げにそう聞き返す彼女に、僕は意地悪をするように言ってやった。
「僕のこと避けるのだけは勘弁してね?」
 彼女は拗ねたように頬を膨らませると、言った。
「あなたが『もう勘弁して』って言っても付き纏ってやるわよ!」


 音楽室を退室した後、僕は昇降口……ではなく、国語準備室へと足を向けた。
 いつかのように躊躇ったりせず、ドアをノックする。返事はすぐに返ってきた。
『はい?』
「僕です」
『鍵ならかかってないぞ』 ノブに手を掛ける。確かに鍵はかかっていないようだ。
「失礼します」と声をかけ、僕は部屋の中へと入った。これまた、いつかと同じように、部屋には英里先生の姿しか見当たらない。
 国語準備室と銘打ってはいるが、どうやらすっかり、英里先生の私室と化しているらしい。
 それを証拠に、この部屋唯一のデスクに腰掛けた英里先生は、忙しなく資料と思しき束を捲っておる。
「今日はどうしたんだ?」 紙に目を落としたまま、先生は言った。
 僕はそんな先生に言ってやった。
「『盗み聞きするならもっとうまくやることだ』って言ってませんでしたか?」
 先生は顔を上げると、ニヤリと笑った。
「なんだ、バレていたのか?」
「うわっ、白々しい。バレるようにやってたくせに」
「それもお見通しか」
「ええ。そりゃもう、バッチリと」
 クックックッと先生は笑って、「まあ、そう怒るな」なんて言って下さる。
 僕は眉間に力を込めた。
「色男が台無しだぞ」
「誰のせいですか、誰の」
「ふんっ……」
 背もたれを鳴らしながら、先生は言った。
「これでおあいこだろ?」
「うっ……」
 そう言われてしまえば、もはや、僕にはぐうの音も上げることはできない。
 最初に立ち聞きをしたのは他でもない、僕自身なのだから。
 悔しがる僕を、先生は面白そうに眺めていたが、それにも飽きたのか、さっさと話題を変えた。
「どうやら、うまくいったみたいだな?」
 どんだけ黙っててやろうかと思ったものだったけど、僕はしぶしぶながら頷いた。答えなかったところで、どの道、この人には全部見られていたのだ。今更、どうなるものでもない。
「あいつは何だって?」
「とりあえず、僕を避けることはもうしないと……」
「そうか……」
 先生は天井を見上げた。
「私の喝も多少は効いたらしいな」
「多少なんてもんじゃないですよ」
 僕はため息混じりに言った。
「彼女、泣いてたじゃないですか」
「泣かせたのはお前だろ?」
 先生は心底、心外だと言わんばかりに顔を曇らせた。どうやら、本人にキツイことを言ったという自覚はないらしい。


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