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wonderful world
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wonderful world-2

僕は目を開けた。
そして窓越しに空を見遣る。
星は見えない。
今にも雪が降り出しそうな空模様。
駅のホームを見る。
もう人影は無く。
また思い出す。
君と最後に交わした言葉。
それは君が旅立つあの駅のホームで。
朝からずっと無言だった二人。
その日最初に交わした言葉が、最後の会話。
ジリリリ
もう電車のドアが閉まる。
二人を分かつ、永遠に。
「もし」君は言った。
「もし、私が向こうでの生活に耐えられなくなったら、帰ってきていい?」
涙が溢れていた。
僕は何も言えなかった。
「その時は、迎えに来てほしいな」
愛が溢れていた。
僕は何も言えなかった。
きっと君は、うまくやっていける。
どんな世界にいっても、君なら絶対に。
けれど、もし。
ドアが閉まる。
「けれど、もし」
君が帰ってきたいと、そう言うのなら。
ドア越しに、最後の言葉。
「僕は、ずっと待っているよ」
君には聞こえていないだろう。
僕の誓い。
僕だけに聞こえていればいい。
絶対に帰ってきては駄目だ。
だけど、ずっと待っているから。
そして君は僕の届かぬ場所へと旅立っていく。

あまりの寒さに、ひとつ身震いをする。
君は、今日も来ない。
仕事帰りに駅のホームに来ることが、僕の日課だった。
ロータリーに車をとめて、来るはずの無い帰りを待つ。
それはいつか、僕が誓ったもの。
決して破ってはいけない、その。
終電は既に過ぎて、人はまばら。
僕はエンジンをつけようと鍵に手を伸ばす。
ふと視線を上げた、その時。

彼女は現れた。

ひとり、薄暗い駅のホームから、大きな鞄をさげて。
見間違えようも無い、旅立ったときの様子そのままに。
僕は言葉を失った。
もう何度、この駅のホームを訪れたのだろう。
もう何度、君の姿を思い返したことだろう。
辺りを見まわす、その全ての仕草が懐かしかった。
夏、海での初めてのデート。
秋、二人でまわった学園祭。
冬、二つのプレゼントに喜ぶ笑顔。
春、桜の下での登下校。
そして別れ。
多くの場面がフラッシュバックする。
僕は君を迎えに行こうと、車のドアに手をかける。

瞬間、目の前に、一年以上前の自分が現れた。
それは、こう問い掛ける。
『行くのか?』
僕は、行く、のか?
『違うだろ、僕らはもう終わったんだ』
おわ・・・った・・
『彼女のために、お前は別れた。違うか?』
そう、彼女の足枷を取り去るために。
『ならば会いに行ってどうする。あの日、苦しんで悩みぬいた末に辿り着いた答えを、お前は無駄にするのか?』
そうだ、僕には思い出だけがあればいい。
君には、輝く未来があればいい。
そしてそこには二人の時間はいらないんだ。

冴え凍る寒空の下、彼女は誰かの訪れを待っていた。
僕はその様子を目にしながら、エンジンをつけた。
君は立ち止まってはいけない。
ずっとずっと遠い未来。
いつか君が走り終えた、その時。
僕は君に会いに行こう。
だからそれまでは。
思い出だけがあればいい。
アクセルを踏む。
僕の訪れを待つ君の前を、君の帰りを待つ僕の車が通り過ぎていった。

ラジオをつける。
繰り返し、同じ音楽が流され続けていた。
『どの街まで行けば 君に逢えるだろう
どの街を歩けば 君に逢えるだろう
教えておくれよ 君が好きだから
Whatawonderfulworldthiscouldbe〜
Whatawonderfulworldthiscouldbe〜』
知らず、涙が流れていた。
気付いた。やっぱり僕は、君が好きなんだ。
これからも記憶の中の君は、僕に笑顔を向け続けてくれるだろう。
だから僕は、君を愛し続けるだろう。
だから君は、夢を追い続けるだろう。


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