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BROWN EYES
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BROWN EYES-1

猫みたい。
それが第一印象だった。
「だあれ?この子」
私はパパのズボンを握り締めて、きいた。
でも、本当はあの子が誰か知っていた。
少し前からずいぶんと家の様子がおかしかったから。
だから、本当に知らないみたいに、できるだけ可愛くした。
『子供』のふりをすること。そうしていれば、大人は可愛がってくれる。
幼い私はしっかりわかっていた。
そんな私の手を優しく握り、パパが言う。
「あの子はね、鞠子の弟だよ」
私はしっかりわかっていた。
「おとうと?」
「そうだよ。だから仲良くできるよね?」
「うん。マリ、なかよくできるよ」
私の最上の笑顔にまわりの雰囲気が一瞬にして柔らかくなった。
「えらいなあ、鞠子は」
パパは本当に嬉しそうに、私の黒い髪をなでた。
弟とずっと手をつないでいる女の人は、少し涙ぐんでいた。
パパがさっき、私にママと呼ぶように言った人だ。
私はしっかりわかっていた。
弟の髪は茶色だった。私のと違う。弟の瞳は茶色だった。私のと違う。
でも言わなかった。
「おなまえ、おしえて」
「…ユウマ」
「わたしはマリコ。あなたのおねえさんよ」
私はしっかりわかっていた。知りすぎていた。


10年という歳月が、子猫を少年に変えた。
「マリ」
相変わらず声は甘ったるいのに。私はそこに男を見出だす。
「こっちに、おいで」
意志とは裏腹にベッドに座る遊馬の前に立つ。
細くて長い腕が私の腰を包み込む。
「つかまえた。僕のマリ」
お腹の少し上、遊馬の頭の重みを感じる。
小さく、整った顔立ち。まつげをふせて、私の中の音を聴いているみたい。
ねぇ、どんな音が聞こえてる?絶対に口には出せないくせに、私は問い掛ける。
知らなければよかったのに。気付かなければよかったのに。
子供になりきれなかった自分を、私は呪う。
気を抜くと、掌に触れるくすぐったい猫っ毛で遊びたくなる。
激しい衝動。遊馬には知られたくないのに。
「離して」
嫌がってみせるしかできない私。それを覗き込む遊馬。少年が男に変わる。
「離すもんか」
私から素早く眼鏡を奪って、唇も奪った。
全てを見通すための視力を奪われて、私は遊馬しか見えなくなる。
違う。私は、いつだってあなたしか見えていない。
でも、言えない。
子供のふりを、しなければいけないの。知らないままで、いなければいけないの。
私は何も言わないで、きらきらと輝く茶色の瞳をみつめる。
そのまま強い力で押さえ付けられて、全てを奪われる。
私は泣き、叫び、遊馬の身体に爪を立てる。
耳元で、熱い息が語りかけてくる。
「俺たちは、義姉弟。赤の他人。そうだろう?だって俺達は違う」
そう私たちは違う。
「そうだろう!?俺たちは違う!!」
遊馬の叫び。真実。私たちの一筋の希望。だけど。

「……あなたとパパはとてもよく似ているわ」

あなたの茶色い髪も、瞳も。初めて会ったときのまま。パパと、一緒のまま。
そう、私はあなたがパパの子供だと知っていたの。知っていたのに…。
どうして気づいてしまったのかしら?
「愛してる……」
この、汚れた感情に。





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