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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み 3 〜後輩〜-15

「今朝だって……ないとは思うけどもしもあなたが来たら顔を見れないからって、ずいぶん早く家を出たのよ」
「美弥が……」
 呟く龍之介。
「見込み違いだったと、思わせないでちょうだい」
 凛とした声で、彩子は言う。
「美弥はあたしに似て、男を見る目はかなり確かよ。あの子があなたというパートナーを選んだ以上、あたしはそれを支持したい。でも今のままじゃあ、あたしはあなたを認められない。きっちりけじめつけなさい……いいわね?」
「……はい!」


 キィというドアの開く音で、菅原路子はファイルから顔を上げた。
「あら、伊藤さん」
 心身共に打ちのめされたという風で見るからに痛々しいその様子は見ない振りをし、路子は気楽な調子を装う。
「ベッド……借りていいですか?」
 おずおずと、美弥は尋ねた。
 泣いてはいるが、必要な事はできる。
「ええいいわよ。後で何か飲んだ方がいいわね」
 まだ安心だと思い、気楽な調子を装ったままで、路子は言った。
 頷いた美弥はのろのろとした動作でカーテンを閉め、個室に籠る。
「ふえぇぇぇ……」
 個室の中から泣き声が聞こえて来ると、路子は耳を澄ました……。


「ふえぇぇぇ……うえぇぇ……!」
 ベッドに突っ伏し、美弥は泣きじゃくる。
「ひいぃんっ……龍之介ぇっ……りゅうっ……!」
 家でも教室でも、居場所がない。
 どこにいても、龍之介の匂いがする。
 しかし……あれ程冷たい拒絶の後で、顔など合わせられる訳がない。
「ど……して……どうしてぇっ……!」
 龍之介に拒絶された悲しみが、思考の堂々巡りを起こしている。
 泣き疲れて泣き止み、しばらくしてから再び龍之介の拒絶を思い出して泣いていた。
「うぇぇぇ……」
 泣いて泣いて泣きじゃくって、それでも尽きない悲しみと涙。
「どうして……どうしてぇっ……!」


 伊藤家を出た龍之介は、すぐさま美弥の携帯に電話をかけた。
 かけてすぐに、美弥と電話が繋がる。
「美弥!?」
 電話の向こうで、息を飲む気配。
「頼む、切らないで!!」
 龍之介は叫んだ。
「頼む……今、どこにいる……?」
 美弥の息遣いだけが、向こうから聞こえる。
『……ぇ……』
「……?」
『えぇ……ふえぇ……』
「……!」
 美弥が泣いているのだと気付き、龍之介は息を飲んだ。
「今からそこに行く!そこ、どこだ!?」
『……ほ……けん、しつ……がっ、この…………』
 途切れ途切れの言葉が、胸に突き刺さる。
「学校の保健室だな!?」
 確認しながら、龍之介は駆け出した……。


 涙も止め、時間も忘れて、美弥は自分の携帯をまじまじと眺めていた。
 聞こえたのはいつもと同じ、柔和で自分を優しく包み込んでくれる声。
 昨夜の冷たい拒絶を微塵も感じさせない、龍之介の声。
「な……んで……」

 バタンッ!ばたばたばたっ!シャッ!

「美弥っ!!」
 カーテンが開き……そこに、龍之介がいた。
「龍之介……」
 全速力で走って来たらしく、肩が激しく上下している。
「な……んで……ど……して……」
 呟く美弥を、龍之介はきつく抱き締めた。
「謝れ、ない……」
 抱き締められた美弥は訳が分からず、ただ困惑している。
「謝った程度で済む程に、生易しい仕打ちをしてない……」
 しかし……自分を抱き締めるこのぬくもりは、本物だ。
「聞くのが恐くて、美弥を傷付けた。肯定されたらどうすればいいのか、分からなくて……」
「りゅう……」
「まだ……そう呼んでくれるのか……」
 自分を包み込んでいる、優しいぬくもり。
「ふぇ……えぇ……うえぇぇぇ!」
 いつもと変わらない優しさに、美弥は声を上げて泣き出した。


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