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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み 3 〜後輩〜-13

 美弥が電話を切ると、真継はほくそ笑んだ。
「図書室で……っていうのもアレですし、移動しませんか?」
「え?」
「そうしましょう。俺、静かなとこ知ってますから」
 強引な言い方に、美弥はためらう。
「行きましょう」
 真継は手を伸ばし、美弥の手を取った。
「!」
 反射的に、美弥はその手を振り払う。
「……」
 何も言わずに目を見開き、真継は驚いた。
「あ……」
 気まずそうな声を出す美弥に、真継は笑いかける。
「すいません。気を悪くさせちゃって……」
「あ、その……ごめんなさい。いきなりで、ちょっと驚いただけ」
「いえ、俺の方こそ……女の人にいきなり触るなんて、失礼でしたよね」
 言いながら、真継は内心で舌打ちした。
 こういう女をオトすのは、けっこう面倒臭い。
 菜々子との最後のSEXに負けて引き受けてしまったが、なかなか骨の折れる作業になりそうだった。


 龍之介は家へ帰る前に、デパートに寄っていた。
 紳士服フロアに行って靴下やトランクスを購入した後は、地下に寄って夕食のおかずを物色する。
 ――巴は父に謝り倒されて機嫌を直し、九州に戻ったのでまた兄との二人暮らしが再開し、龍之介はホッとしていた。
「あ、先輩!」
 夕食のおかずを買ってデパートを出た龍之介は、声をかけられてびく!と反応する。
 全身にぷつぷつと鳥肌が立ち、額には脂汗が浮き始めた。
 認めたくない。
 認めたくないが……。
 ぎこちない動作で振り向くと、認めたくない人物が立っている。
「奇遇ですねぇ!」
 満面の笑みを浮かべた谷町菜々子が、そこにいた。
「う、あ、あぅ……」
 後ずさる龍之介に、菜々子は近付く。
「先輩、お茶しませんか?あ、誘ったのはあたしですから、もちろんオゴりますよ!」
 そう言って、菜々子は幾人もの男を蕩かしてきた必殺スマイルを浮かべた。
 龍之介の額に浮く脂汗が一気に増え、脳みそが思考活動を停止する。
「そうしましょ!」
 もつれた舌と麻痺した脳みそで断れるはずもなく、龍之介はぎくしゃくとした動きで菜々子の後ろへ付いていった。
「近くに静かで雰囲気のいい喫茶店があるんです。きっと、気に入っていただけますよ!」
 明らかにおかしい龍之介の体の運びに気付かず、菜々子は嬉々としている。
「……あ、れ……?高崎先輩、あれ……伊藤先輩じゃないですか?」
 菜々子が言った『伊藤先輩』の一言に、龍之介は反応した。
「え?」
 指された方向に目をやり……龍之介は、硬直する。
 確かに、それは美弥だった。
 ただし……見知らぬ男に、髪へキスされている。
 少なくとも遠目には、そう見えた。
「うっわ……浮気、ですよねぇ?」
 龍之介へ顔を見せず、菜々子はさも驚いたように言う。
「信じらんなぁい。道路なんかで堂々と……」


 少し、時間を遡る。
 美弥と真継は、喫茶店へやって来ていた。
 菜々子の情報を聞き込んだ美弥だが、聞き込み終わったから『ハイさようなら』とも言えず、真継のお茶に付き合っていた。
 それなりに会話も弾んでいたが、真継の携帯が会話を断ち切る。
「あ、すいません……」
 真継は携帯を取り出し、ディスプレイを見た。
「あ、はぁ……」
 納得したような声を出し、真継は携帯を操作する。
「どうも、失礼しました」
 何やらし終わると、真継は美弥の手元に目線をやった。
 キャラメルフレーバー付きの紅茶が入っていたカップは、もはや空になっている。
「先輩……家まで送りましょうか?」
「え?」
 真継の唐突な言葉に、美弥は目をしばたたかせた。
「先輩に無理言って、俺の都合に付き合わせちゃったんですし。ここでそのまま帰るなんて真似したら、罰が当たります」
「でもそんな……」
 ――何度か言い合ったが真継は譲らず、結局美弥が折れて家まで送って貰う事になった。
 喫茶店を出た所で、真継が美弥に言葉をかける。
「あ、先輩……髪にゴミが付いてますよ」
「え、嘘?」
 美弥は自分の髪に触れるが、最初からない物が取れる訳がない。
「あ〜先輩……ちょっと失礼。俺今日コンタしてないんで」
 真継は美弥の頭に、顔を近付けた。
 それはまるで遠目には、髪にキスでもしているかのように見える。
「……はい、取れました」
「あ、ありがとう……」
 ぎこちないお礼に、真継は微笑んだ。
「じゃ、行きましょう」


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