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人魚姫
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人魚姫-2

いくつもの泡が彼女を包み黒く、長い髪が揺れて美しい。日の光が屈折して水の中を幻想的に彩る。

彼女はまた少し微笑み、目を瞑った。
真中は無意識に彼女の頭を掴み、その唇に触れた。
そして自分の肺にある残りわずかな空気を彼女へと送る。

その間も耳元では水中特有の沈黙と泡の弾ける音だけが響いた。



さすがに自分も苦しくなり彼女を抱き抱え、水中から顔を出す。

肺いっぱいに空気を吸い込み、すべてを吐く前にまた次の空気を吸う。
何回か肩で息をしていると彼女は口を開いた。

「先生も濡れちゃったね」

真中は少しの間、呼吸することに夢中で彼女の存在を忘れていた。

彼女を見ると、先程とは比べものにならないくらい無邪気な笑顔だった。
まさに高校生のような眩しい笑みをこぼし、また髪を掻き上げる。
その仕草と表情があまりにも釣り合わず、また違う魅力があった。

「お前、ハメやがったな」

真中もまた自分の髪を掻き上げる。
そのとき視界にはいった時計を、動いているかなんて見たくもないと言ったようにプールサイドへ投げた。

「べっ‥別にそんなことないもん。先生が暑そうだったから‥」

そう言って彼女は俯いた。毛先から落ちる水滴が綺麗だった。

「だからって溺れたふりすんなよ。こっちは焦っただろ。」

「大人は理由がなきゃこんなことしないでしょ?」

彼女の言うことはもっともだった。きっと彼女が溺れたふりをしなければ、プールに入りたいと思うだけで実際に飛び込むことなんてしなかっただろう。

「それに‥‥ふりじゃないもん‥‥。」

頬を紅く染めて、また彼女は俯き真中の袖を掴んだ。

すべてを悟った真中は目を細め、悪戯に笑った。

「人工呼吸が必要?」

さらに顔を紅くして、彼女は顔を少し上げ真中を見つめた。

「‥‥ひつ‥よ‥‥んっ」

言い終わらないうちに真中は彼女を引き、頭の後ろに手をまわし、触れるだけのキスをした。

唇を離し、手で頬についた髪を梳く。

そしてまた深い接吻をした。



季節は夏。
誰もが恋だの愛だの得体の知れない幻想に胸を躍らせる。

そう‥‥
誰もが例外なく‥‥ね?


―つづく?―


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