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【思い出よりも…】
【女性向け 官能小説】

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【思い出よりも…中編】-2

昼食を終えると私は上役達と別れて、会社ビルの屋上から慶子に連絡をとった。彼女はすぐに出ると、オクターブを上げて少しはしゃいだ声で答える。

「昨日はごちそうさま!伊吹君、また会いたいわね?」

「そりゃ嬉しいな…ただ、平日は仕事で遅いから…金曜の夜なら…」

「分かったわ!また連絡する」

慶子はそれだけ言うと、一方的に連絡を切ってしまった。私は、携帯をしまうと、屋上から部署へと戻る。誰も乗っていないエレベーターの中で私の顔は自然とほころんでいた。


ー夜ー

仕事を終えて自宅に帰る。我家のある住宅街の通りを歩いていると、ひとつひとつの家から漏れる柔らかな明かりが団らんを連想させる。今の私には遠い世界のようだ。
ふと、その一角に明かりがついていない真っ暗な家が見える。周りとのコントラストから、よけい目立つ。

(まさか……)

予想は的中した。そこは私の家だった。
私は慌てて玄関を開けると、手探りで部屋の照明を着けた。そこには妻も子供の姿も無く、私が出かけた時から空気が止まっているように思えた。
覚悟はしていたつもりだが、いざ直面すると、狼狽している自分がいた。


ー金曜夜ー

「伊吹君!」

繁華街にほど近いコーヒー・ショップ。慶子は私の姿を見つけるなり、大きく手を振っている。

「すまない、ちょっと遅れたかな?」

彼女は大きく首を横に振ると、笑顔で答える。

「ううん、私も今来たところよ。今日はごめんなさい。無理に誘って…」

「そんな事はないさ!楽しみにしてたんだ。行きつけの料理屋に予約を入れておいたから。さあ、行こう」

私は彼女を連れて、繁華街へと歩みを進めた。


私達は十分時間をかけて食事を楽しみ語り合った。話題はあの頃の事だ。慶子は素晴らしい記憶力で、ひとつひとつの出来事を細かいディテールに至るまで憶えていた。
しかも、酒の力もあってか、喜々として語りかけてくる。

「よくそんな事まで憶えているな!私なんか半分も憶えていないよ」

私が喋っている間、慶子は私の目をジッと見つめる。それを見て思わず苦笑いを浮かべた。

(これも20年前のままだ。相手の目から視線を外さない。それも濡れたような瞳で…)

「何がおかしいの?」

「君のそのクセさ。相手が話している間、視線を外さない…しかも潤んだ瞳でね」

「そう?」

「ああ…その瞳に当時の男子達は『ひょっとしたら…』と思ったもんだよ」

「そうかしら」

そう言ってグラスを傾ける慶子。胸元の開いた服のためか、首筋から胸元にかけて白い肌が色づいている……


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