投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

無名の伝記
【その他 恋愛小説】

無名の伝記の最初へ 無名の伝記 20 無名の伝記 22 無名の伝記の最後へ

無名の伝記-21

「エバン、行きな?」

「ああ。」

もう悔いはない、伝えたい事は伝わった。でもエバンの手はまだ離れることを惜しんでいる。

これが本当の別れ。エバンの連絡先もセリカは受け取らなかった。二人を繋ぐものはこの先も抱えていく思い出しかない。

「世界が狭いと言われた。」

「え?」

突然のエバンの言葉にセリカは意味が分からなかった。遠い目をして呟いた言葉は一体誰に言われたのだろう。

「そうなのかそうじゃないのかは、オレがこれから広げていく事でしか分からない。」

相変わらず何の事を言っているのか分からないセリカははてなマークを浮かべながら聞いていた。

真っすぐ見つめる決意のある瞳、不思議とそれは体の自由を奪った。何かくる。それは聞いていいのかいけないのか、セリカを動揺させた。

「セリカ、お前を探していいか?」

エバンの言葉にセリカは目を大きくした。

「その時どうなっているか分からない。結婚しているかもしれないし、子供がいるかもしれないし。もう死んでるかもしれない。何年後、何十年後かもしれない。」

お互いに家庭がある、そんな状況かもお互いに独り身かも分からない。それでももう二度と会えなくなる事が有り得なかった。

「オレはお前を探してもいいか?」

想いは思ったよりも運命的だった。

「幻滅するんじゃないよ?」

セリカが笑う。それは未来を楽しみにしているという合図だった。

「期待しておく。」

そして二人は抱き合った。しっかりとこの肌の温もりが次会う時まで冷めないように。

ただ愛しい気持ちだけがそこにあった。

「じゃあ、またな。」

「ええ、また。」

ゆっくりとお互いに背中を向けて歩きだした。

心は晴れている。

空も晴れている。





「なによ、珍しく本なんか読んじゃって。」

「別にただ時間が空いたから。」

「ん?あんた電車通学だっけ?まいっか、食べる?」

制服姿の少女は駅のホームで紙袋に入った食物を渡した。中にはパンがいくつか入っている。お礼をいいながら口にくわえて袋を少女に返した。


無名の伝記の最初へ 無名の伝記 20 無名の伝記 22 無名の伝記の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前