投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

無名の伝記
【その他 恋愛小説】

無名の伝記の最初へ 無名の伝記 17 無名の伝記 19 無名の伝記の最後へ

無名の伝記-18

「おはようこざいます。今日セリカさんも発たれると聞いて…これ、つまらないものですけど受け取ってください。」

 片手にかけていた編み籠をエマは差し出した。遠慮するわけにもいかずセリカはお礼を告げて受け取った。少しだけ蓋を開けてみると何やら軽食が入っているようだった。

 これからエバンが食べていく料理、セリカは何とも言えない淋しい気持ちを感じる。

エバンは荷物を手に取り、カインズ夫妻を見た。そしてセリカに向き直し微笑んでみせる。

「じゃあ、オレ行くわ。」

 言葉にならずセリカはほほ笑み、何度も頷いた。エバンはゆっくりと右手を差し出す。それに気付いたセリカは右手を差し出し、二人は握手をした。

「元気でね。」

「ああ、セリカも。」

二人は固く握手をし、やがて力なく解けていった。その手はいつしか別離への入り口にかわった。

セリカの肩の辺りでぎこちなく振り続ける手、カインズ夫妻と合流したエバンは振り返る事無く歩き始めた。

少しずつ遠ざかっていく姿、セリカはさよならの手を止め車に荷物を押し込み乗り込んだ。リクライニングを深めにとり、思わずうつむいてしまった。しっかりと握られたギアとハンドル。体は前に進もうとしている、あとは心だけだった。

顔をあげ、ニュートラルになっているのを確認したあとエンジンをかけた。

ゆっくりと発進する。思いの外少しの切なさで別れは終わってしまった。そうセリカは感じていた。次第に見慣れた風景も横を流れて後ろになっていく。

そんなに悲しくはなかった。でも何となく気持ちが落ち着かなくなり、ジェイドの街を出た後車を停めた。

滅多に出ることのなかった街の外、久しぶりに外から見る街の景色はどこか他人行儀だった。何か感じる違和感、セリカは荷物の中から煙草を取り出して外に出た。

真っ青な空に白い雲はわずかしか流れていない。まさに良いお天気だった。

セリカが作り出した「雲」でさえも溶かしてしまう。一口吸って吐き出す、また一口吸って吐き出す。ふいにセリカが見上げていた空は歪みだした。

淋しい訳じゃない。むしろその感情は悔しさに似ていた。目にためた涙を流すことは許さなかった。

高ぶる気持ちを押さえるために深呼吸をする。

「セリカ。」

背後から声がかかった。これは空耳だろうか?もう決して聞く事の叶わない声が聞こえた気がした。

全てを疑いながらセリカは振り返る。やはりそこに彼はいた。

「エバン?」

「よかった、まだ近くにいた。」

「あんた、何やってんの?なんでここに?カインズ夫妻は?」

急な出来事にセリカは思いつくもの全てを言葉にして吐き出した。明らかに動揺している、何故ここにいるのか分からなかった。


無名の伝記の最初へ 無名の伝記 17 無名の伝記 19 無名の伝記の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前