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天井の金魚
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気にしない足跡たち-11



墓の前に佇む谷町に、雪が降る。

杉浦雄三が死んでから三年が過ぎた。

彼は幸せだったろうか?石を見つめながら谷町は思う。

それは杉浦にしか解らない事ではあるけれど、谷町は考えずにいられない。

この世から不幸はなくならない。人の価値や命など紙のようなものだからだ。

握ればすぐに形を変えてしまう。

誰かにとって世界よりも大切だと思える人は、誰かにとっては屑よりも価値がない。

人は脆いから、守るのは大変だ。
皺を消すのは困難だ。
元通りにはならない事だらけだ。

握り潰す事は、悪意の持ち主にとっては酷く容易い事だと云うのに。

「杉浦さん。人は変わりませんよ。この世は不幸だらけです」

石に触れて、空を見上げた。
雪が舞い落ちては消えてゆく。

命と同じように。

「杉浦さん。天井をガラス張りにして金魚を飼った人が居るんですよ。大阪かどこかのお金持ちでね―――テレビで見たんです」

きらきらと、金魚が泳ぐ―――手の届かない頭の上を。

「杉浦さん。僕は天井を泳ぐ金魚が娘さんに思えてならないんです」

当たり前に、目に出来る金魚が天を泳ぐと―――。

「いつも当たり前に目にしていたのに、途端に手に出来ないものに感じる。泳ぐ場所が変わると云うのは凄い事です」

もう、手は届かない―――。

「杉浦さん。娘さんと奥さんによろしくお伝え下さい」

雪の降る中、谷町は墓をもう一度撫でて墓地を後にした。

家の水槽に居た金魚が、天井を泳ぐ。

家の水槽は寂しさで水を澱ませる。

「杉浦さん。時々考えるんですよ。貴方は僕の事も心の奥では―――」

憎んでいたのではないですか?

彼女を救えなかったから。子供が死んでいないから。

―――幸せに見えた筈だから。

答えはない。消えた雪は巡るだけで答えなど遺さない。

谷町は遠ざかる寺を振り返った。

雪の中、答えもなく何もない。

ただ、静かに命が消えて行くのを見守るだけ。


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