投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

誰も止めないと、言われた。
【ショートショート その他小説】

誰も止めないと、言われた。の最初へ 誰も止めないと、言われた。 0 誰も止めないと、言われた。 2 誰も止めないと、言われた。の最後へ

誰も止めないと、言われた。-1

 大切な人が死んだ。

 何故死んだのか、今でも理解らない。

 理解らなくて、忘れられなくて、よく分からなくなった。


 だから、手首を切ってみた。
 思ったより、痛くない。
 死んだと聞いた時、涙は出なかったから、だから流れる血は涙なのだと思った。


 流れる血が多ければ多い程、自分の悲しみを表現出来る気がして、だからいっぱい切ってみた。
 だらだらだらだらと血が流れる。血は涙と同じく暖かかった。視界が暗くなって、眠気が身体に纏わりついた。
 ああ死ぬんだな、と、何の感慨もなく思った。




 あの子の姿が見えた。

「やあ」
 呼び掛ける。その子はどこか堅い顔をしていた。
「死んじゃったのかな」
「まだ死んでない」
 ぶっきらぼうに言う。怒ってるわけじゃない。それは理解った。

 でも何を感じているのか、わからない。

「死にたいの?」
 その子は聞く。
「わからない」
 そう答えた。
「死にたいなら、勝手に死ねばいい。誰も止めない。止める権利は、誰にもない。だけど」

 ――――死に逃げるな

 その子は突き放すように言った。
 でもその口調には、やはり怒りはない。
 自分は死にたいのか、死にたくないのか、やはりわからない。でも少なくとも、死ぬことに恐怖はない。





 目が覚めた。
 見知らぬ、天井。
「もう、自殺なんかしちゃ、駄目だよ」
 白衣の男性に、そう言われた。

 何故、自殺してはいけないのか、自分にはわからない。

 でも自分は生きていて、死にたい理由もわからないのだから、死ぬ必要はないのだと思った。

 だって、今自分は生きている。

 それだけは確実で、例え生きていくことが辛くても、――生きているなら、生きていける。

 死ぬのはいつでも出来るから、もう少し生きてみようと、そう思った。


誰も止めないと、言われた。の最初へ 誰も止めないと、言われた。 0 誰も止めないと、言われた。 2 誰も止めないと、言われた。の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前