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是奈でゲンキッ!
【コメディ その他小説】

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よくある光景 『是奈と愉快な仲間たち』-1

 よく有る光景だったりもする。

 コロッケ定食にはいつもの様に、工事現場のおじさん達が被っている黄色いヘルメットの様な、山盛りに盛り上げた特大大盛りキザミキャベツと、赤く熟れた小(ち)っちゃなプチトマトが2つ、”食べて! 食べてぇ! ”と訴え掛けているかの様に、並んで添えられていた。
 都子(みやこ)は安っぽいプラスチック皿を彩(いろど)ってくれていたプチトマトの一つに手を伸ばすと、蔕(へた)の部分にくっ付いた可愛らしい葉っぱを抓(つ)まんで持ち上げ、それを口へと運ぶ。艶のある赤い色は新鮮な証拠で、ピンポン玉よりも更に小さいそいつらは、室内を照らす蛍光灯の光を映しこんでキラキラと輝き、見る者を感動へと誘っているかの様ですらある。とても一口に食べてしまうには惜しいほどだと、都子も思わず微笑んでいた。
 都子はそんなプチトマトの先に、そっと歯を当て、噛み締めた。途端に青臭い香りが口の中一杯に広がり、同時に冷んやりとした冷たさが舌の先を刺激すると、一瞬噛むのを止めたくなる様な気さえ起こさせる。


”チュッ!”


 すると、都子に噛み締められて、プチトマトはオレンジ色の汁をテーブルの上へと飛ばす。それはあたかも噛まれた痛さに驚いた彼女が、流した涙の様だと都子は思ったりした。
 飛ばされた汁は丁度、都子の会い向かいに座って『狸丼』なる、どんぶり飯(めし)の上に沢山(いっぱい)の揚げ玉を載せただけと言う、けったいな丼物を食べていた彩霞(あやか)の顔へも掛かったらしい。どうやらそんな汁が眼に沁(し)みたのか、彩霞は ”ゴシゴシ ”と手の甲でもって右目の辺りを擦ったりもしていた。
「あっ! ごめん……」
 都子はさりげなく、詫びの言葉を入れもする。
 その声が聞こえたのか、聞こえなかったのか。彩霞は都子が食べていたコロッケ定食の皿に残るプチトマトに素早く手を伸ばすと、それを引っ手繰り、葉っぱごと忙しく口の中へと放り込んだ。そして、まるで憎い親の敵にでも噛み付いたかのように、口の中のプチトマトを激しく噛み潰していた。
「ごめんって言ったよぉ! そんな怒んなくてもいいじゃんっ!!」
 都子は自分が仕出かした不始末よりも、親友である彩霞におかずを取られた事を腹立てて、大きな声を出したりもする。
 すると彩霞、何を思ったか、目を吊り上げて都子の顔を睨みつけるや、いなや。
”ブブブブーーーッ!”
 噛み砕いてグチャグチャになったプチトマトを思い切り都子の顔目掛けて、噴き出したではないか。
「うわあっ! 汚ったなーー! なにすんのよもーー! このバカ女っ!!」
 都子は思わず、持っていた箸の先端を彩霞に向けて、その箸を握る腕を勢い良く彼女の目の前へと突き出しもする。
 すると彩霞は、そんな都子の箸攻撃を握り締めていたカレーライス用の大きなスプーンでもって、受け止め、そして。
「たかがプチトマトごときに、さほど頭に血を上らせる事もあるまい! おぬしも人間が小さいよのう」
 などと言いながら、ほくそ笑んでいた。
「なんですって! いっつもいつも、悪いのは彩霞の方でしょっ! 今日と言う今日は許さないんだからねっ!!」
 とうとう切れたらしい都子。最早事の始まりが自分であった事など何処へやら、彼女は箸をフェンシングの剣のごとくにして「えい! えい! えい!」と、彩霞目掛けて連突きを繰り返し。
 彩霞はそれを銀色に輝くスプーンでもって、まるで中国拳法の剣技のごとくぶん回して受け止めると。二人して学食中を走り回り、チャンバラならぬ、激しい鍔迫り合いを始めたのだった。


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