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引力
【学園物 官能小説】

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引力3 〜篠原編〜-1

「…………礼!!」
「「ありがとうございましたっ!!!」」

道場に部長と部員達の大きな声が響く。やっと部活が終わった。
部員達はわいわい騒ぎながら、各自矢筒に矢を片付けたり、弓をしまったりしている。
自分も片付けを始めると、仲の良い部員の池田が隣で大きなため息を吐いた。
「どうかしましたか?」
僕が尋ねると池田はこの世の終わりの様な声で言った。
「どうかしましたかじゃねぇよ…今日が何の日か知ってるか?バレンタインデーってヤツだよ。俺がクリスマスと同じくらい嫌いな日さ。」
そう言ってまたため息を吐く。
「お前はいいよな。北崎からもらえるし、毎年けっこうもらってるじゃねぇか。俺なんかお袋からだけだぞ…」
「今年はきっと他の子からももらえますよ。」
根拠なんか全くないが、そうでも言うしかない。
「……お前、他人事だと思ってるだろ。」
彼が笑いながら言うのでつられて笑った。
「はい。」
僕が言うと
「ちぇ むかつくなぁ。」
と言いながら、僕の肩を軽く叩く。そして荷物を持つと、道場を出て行った。
「あ、掃除頼むな。」
の一言を残して。

この部では学年に関わらず、最後に道場を出る者が掃除をしていかなければならない。
池田と話しているうちに他の部員は全員帰ってしまったため、僕が掃除をすることになった。
「やられましたね…」
仕方ない。苦笑するとロッカーからモップを取り出し、道場の掃除を始めた。
ちなみに愛しの彼女は他の女子部員と供に道場を出ている。
『部員の前でいちゃいちゃするのは恥ずかしいからイヤ。』なのだそうだ。
付き合って半年たった今でも彼女の恥ずかしがりっぷりは健在である。

10分ほどかかって掃除を終え、道場を出て部室に向かう。
いつも彼女はそこで弓具の調整等をして僕を待っていてくれる。

しかしドアを開けると、部室には誰もいなかった。
『今日はバレンタインだ』と言った池田の言葉を思い出す。当然待っていてくれると思ってたのに……。
がらんとした部屋に心が痛む。

その時ドアが開き真澄がニコニコと駆け寄ってきた。
「やっと帰ってきた。図書室に本返しに行ってた…の…」
彼女の言葉が終わる前に抱き締める。
「ちょ…どうしたの?」
彼女はいきなりの抱擁に驚いたようだった。
「誰もいなかったから帰ってしまったかと思いました…」
「…寂しかった?」
「ええ…とても」
真澄はフフと笑って僕を抱き締め返してくれる。
「聡ってさぁ…甘えんぼだね。」
背中をポンポンと叩きながら可笑しそうに微笑んだ。
「そうです。僕は甘えん坊の子供ですから、早くチョコくださいよ。」
待ちきれずにそう切り出すと腕の中の真澄の体がビクっと震えた。
「どうかしましたか?」
怪訝そうに顔を覗き込むと僕と目を合わせないように顔を逸らした。
「あのね…チョコ一応は持って来たんだけど…」
「けど?」
「あの…ホラ、柄にもなく手作りに挑戦してみたんだけど…あんまりうまく出来なくて……」
「手作りしてくれたんですか!?」
僕がうれしそうに言うと真澄は慌てて顔をブンブン振った。
「やだっ そんなに期待しないでよ!ほんとに変になったんだから…」
「いいから早く出してください。変かどうかは僕が決めますから…ね?」
僕が言うと渋々カバンから小さな包みを持って来た。
薄いピンクのかわいいラッピング。逸る気持ちを抑えてリボンを解くと、中にはトリュフが6個入っていた。
「すごい!ちっとも変じゃありませんよ。」
多少形が崩れていると言えなくもないが、普段料理をするなど聞いたことのない彼女が僕のためにせっせと作ってくれた事を思うと、そんな事は少しも気にならない。
ましてあんなに恥ずかしがりな彼女が家族の前でどんな顔をしてチョコを作ったのだろうと思うと愛しくて仕方なかった。


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