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猫被りな屋上の住人
【学園物 恋愛小説】

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猫被りな屋上の住人-2

「おいっ、里中っ!ここを開けやがれっ!」
扉を何度ドンドンと叩いても、その扉が開けられる気配が無い。ノブを回してみても、もちろん開く訳が無い。
仕方なく俺は、針金を取り出していつもの様に鍵を開けた。

「里中っ!てめぇ、よくも俺様を締め出しやがったな!?」
「勝手に開けたんですか?不法侵入ですよ?退学ものですね。」
熱くなって詰め寄る俺を尻目に、里中は相変わらずの無表情面を貫いている。
「うっせぇ!つか、お前だって同じだろうがっ!」
「何を仰ってるのですか?」
「お前だって不法侵入だろがっ!」
「私を誰だと思ってます?」
そう言うと里中は、銀色に輝く鍵を掲げた。
「この学校内で私が入れない場所は有りません。生徒会長ですから。それよりも、あなた誰ですか?初対面の人に呼び捨てにされるのは、不愉快です。」
「俺は小谷 倫だっ!お前と同じクラスだろがっ!同じクラスの奴の顔と名前ぐれぇ覚えとけよっ!」

そうは言っても、里中が俺の事を知らないのは当然と言えば当然だ。
この学校では、そんな事を覚える必要は無い。寧ろクラスメイトの名前を覚えている奴の方が珍しいくらいだ。まったく…せめて顔くらい覚えとけって話だよ。
「そうですか。全く興味有りません。」
(やっぱりな…)

「てか里中さぁ、なんで猫被ってんの?」
「何故いきなり?」
「さっきから思ってたんだけどさぁ…その喋り方、地じゃねぇだろ?」
「猫なんて被ってませんが。」
「被ってんだろうがっ!」
「そんな覚えはございません。」
「あ゛〜、ムカつくなぁ…その口調!馬鹿にされてるみたいで、すんげぇムカつく!」
「ご自由にどうぞ。」
「カーっ、腹立つ!『里中がハゲって叫んでた』って金ジィに言ってやっても良いんだぞ?」
「………」
「嫌だよなぁ?あぁん?嫌だったら『ごめんなさい猫被ってました』ぐれぇ言ったらどうだ?そうしたら、許してやっても良いぞ!」
調子付く俺に、里中が片眉を上げて冷たい視線を向ける。
『おっ、無表情が崩れた』と思ったのも束の間、俺は自分の言葉を酷く後悔する事になった。

「アンタ、誰だか知んないけどさぁ…」
(小谷だって言ってるだろがっ!)
「アタシの言葉とアンタの言葉…他人はどっちを信じると思う?当然アタシだろ!そんな事もわかんねぇの?最悪…てかさぁ、マジでウザイからさっさと消えろ!」
(は?コイツ…誰だ?)

今の状況に敢えて名前を付けるとすれば…『“蓮華様”降臨』
俺を睨む瞳はまるで鋭利な刃物の様で、その声は一般の男なら怯んでしまうくらいにドスが効いている。

「アンタ、邪魔。早く失せろ!」
そう言うと里中は、手加減無しに俺を蹴飛ばした。蹴られた場所がズキズキ痛む。
「痛ってぇ…何すんだよ、里中っ!」
俺は負けじと里中を睨みつけた。
「その目は何だ?自業自得だろ?つか、アンタの相手するだけ時間の無駄だ。もう二度とアタシの前に顔出すんじゃねぇ!」
次の瞬間、里中の表情は急に無表情に戻って、さっさと屋上を出て行った。

(何だ?あの女…ガラ悪ぃ……)
暫く俺は、痛みも忘れて里中が出て行った屋上の扉を呆然と眺めていた。
その内に段々と腹の底から笑いが込み上げてきて、誰も居ない屋上には俺の笑い声が響き渡った。
(あの女、マジ傑作!この学校もまだまだ捨てたもんじゃねぇなっ!)
『学校が面白くなりそうだ』と…そう感じた瞬間だつた。


里中との屋上での出会いが、俺の退屈で不変な日常に少しの変化を与えた。
何故だか知らないが、久々にワクワクする感じを覚える。

この後、俺が里中に付き纏って更に邪険にされるのは、またの機会にでも話すとしよう。


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