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その心、誰知らず。
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その心、誰知らず。-3

少女が泉明寺家に来てから二週間あまりのことである。
「君と話がしたいんだ。入ってもいいかな?」
夜も遅く、由敬が少女を訪ねた。
今朝から家を空けている敬世の帰りは、明日の昼ごろと聞いていた。
少女は迷ったが、由敬の懇願に負け、縁側で話すということで承諾した。
月明かりに照らされた二人。
由敬がゆっくりと話し出す。
「父がとても嬉しそうでね、僕も嬉しいんだ」
「そうなんですか」
「父を喜ばせることは、僕には難しいからね」
「そんなことありませんよ」
「昔からそうだった。最も、昔はあまり会う機会さえなかったけどね。でも父さんは、妹がいるだけで楽しそうだった」
少しだけ、哀しそうな憂いを帯びた表情を見せた。
少女は無言でその顔を見つめる。
「僕はね、ずっと妹に嫉妬していたんだ。彼女は僕に無いものを全て持っている気がして、とても、憎かった」

「だから、貴方は伽世さんを殺した」

刹那の静寂。
鼓動すら止まった気がした。
けれどそれは気のせいで、むしろ由敬の心拍数はあがっていく。
「伽世は…自殺だよ」
「でも、自殺するまでに追い込んだのは貴方でしょう?」
澄んだ目で、由敬を憐れむように見つめる。
少なくとも、由敬にはそう見えた。
そう見えたら、いてもたってもいられなくなる。
「――――っ!」
由敬は少女を押し倒し、上に覆いかぶさる。
「クソッ!この亡霊がっ!!」
だが、なお少女が真っすぐ自分を見つめることで、苛立ちが増す。
由敬は自分の手を少女の細く白い首へと滑らせる。
両の手で首を掴むと、一気に力が加わった。「うっ……」と少女は呻く。
「君は…貴様は、まだ僕の邪魔をする気かっ……」
首を絞める手に、更に力が強まる。
「あ…やめ……ぐ…」
苦しみ喘ぐ少女。と、その意識の中から、別の人格の者が出てきた。

『に、にいさ……由…にい…』
少女も僅かに残る意識で驚いたが、由敬にはもっと衝撃が大きかった。
思わず首を絞めていた力が弱まった為、少女は由敬の手から逃れ、距離を取った。
「伽世か…?お前、やはり伽世なのか……」
『…はぁ、はぁ……そうよ。兄さん、私よ…』
「どうしてだ。どうして戻って来た!十年も経つのに…あの時の姿で……」
『…それは違うわ。この娘があまりにも私に似ているものだから、乗り移らせて貰ったのよ』
結果、それが由敬を逆上させてしまったことを、伽世は先程悔いた。
しかし、表に出てきたからには言わなければいけないことがある。
『私、兄さんに謝らなければいけない』
「なんだ」
『私、死ぬ前に兄さんに言ったわよね。「兄さんはいいわよね、私ほど監視が厳しくなくて」って。ごめんなさい。私…兄さんがどれほど苦しんできたかも知らずに、無神経なことを言って…』
次第に由敬は冷静になっていった。
「気に病むことはない。本当のことなんだから」
『違うのっ。私、羨ましかったの!』
「何を言ってるんだい?ずっと羨ましかったのは僕の方だよ」
『私、知ってるもの。お父さまが会社を大きくしようと毎日頑張っていたのは、将来会社を継ぐ兄さんの為だって』
「なっ、会社はお前の結婚相手に継がせるはずじゃ…」
『なに言ってるのよ、兄さん、あなたは泉明寺家の長男じゃない』
その言葉を聞いて、由敬は崩れた。
自分はあくまで愛人の子供。愛されてなどいない、そう思ってきた。だから、ずっと妹を恨むことで満たされない感情を埋めてきた。それなのに……。
「伽世…僕は、お前を……」
由敬は、少女が言った言葉を認めようとした。


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