投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

悲願華(ひがんばな)
【その他 恋愛小説】

悲願華(ひがんばな)の最初へ 悲願華(ひがんばな) 0 悲願華(ひがんばな) 2 悲願華(ひがんばな)の最後へ

悲願華(ひがんばな)-1

199X年9月3日夏、22時31分。温もりが、悲しみに変わった瞬間だった。
泣き叫ぶ者、肩を落とす者、信じられないと思う者、そして死を求める事を誓った者。
とある病院の一室で、とある人物の物語が幕を閉じた。
彼女と出会ったのは、まだ去年の寒い冬の事だった。
容姿が優れたわけじゃない。頭が良かったわけでもない。でも、他人には絶対にない暖かみを持っていた。
思い切って告白してみると、いとも簡単に付き合い始める。
聞くと、以前より俺という存在を気に入ってくれてたらしい。
それからというもの、二日に一度のペースで会っていた。この日が来るまでは。
異変に気づいた時は、今年の5月。急に胃の痛みを訴え入院が決まる。
入院後も暖かさを失わず退院したら結婚する事を約束した。
そして丁度1ヶ月前の事。胃癌であることを家族から聞き、手術は成功したが、すでに他の内蔵にも転移していて完治は不可能だと伝えられた。
抗がん剤をする事になったが、良くならず副作用で髪が全て抜け落ちた。
それでも彼女は暖かさは無くさなかった。
そして、今日先ほど、彼女は俺に最期の暖かさをくれた。
「庸司。ごめんね、結婚できなくて。最後のわがまま聞いてくれる?私の事をもう忘れて。あなたは、あなたの道を歩いてね。」
そういって握り締めていた手がゆっくり落ちた。
彼女からのわがままは全部喜んで聞いてきた。それが生き甲斐だったから。
でも・・・・。
「ごめんな。由紀。最後のわがままだけは、聞けないや。やっぱ、お前のそばがいいや。」
俺は、由紀のいる暖かな場所へ行く為に、エレベーターの上りボタンを押した・・・・。

end


悲願華(ひがんばな)の最初へ 悲願華(ひがんばな) 0 悲願華(ひがんばな) 2 悲願華(ひがんばな)の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前