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餓島の防人
【戦争 その他小説】

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餓島の防人-1

ここに来て何日たったのだろうか…
いや、もう何ヶ月…もぅ何年なのか!?
俺はもう、日付も曜日もすべて忘れた…
ただ一つ、忘れてないものがある。
あの日、2月1日の主力撤退のさい、連隊長殿がおっしゃた訓示。

『ガダルカナル島撤退につき各連隊より残存部隊を出すことになった。私としても未婚で長男でないものを選ぶよりほかはなく、その中において立って歩けるものとなるとなお少なくなり結果として君になったわけだ。必ずや、後方で力を盛り返しガ島を奪還してみせる。神州不滅を信じ、第三十八師団の名誉を胸に戦って欲しい』

そう…立って歩くもの30日、体を起こして座るもの三週間、寝たきりは一週間………。
見渡す限りジャングルで食べれる草も動物もおらずただ死と現実のみがある。
餓死の島。
南太平洋の孤島。ガダルカナル島。

今日もまた変わらぬ朝が来た。毎日繰り返される平凡な日々。
残存部隊とは名ばかりで兵一人一人がそれぞれのテリトリーで食料を捜し時折姿を見せる残存狩りの米兵を狙撃していた。 俺は、思い腰をあげ撃たなくなってどれくらいたつのかわからない三八式歩兵銃を肩に担ぐ。
俺はしばらく歩き毎日飽きるほど食べた訳のわからん草をとり小川に向かう。
最近は残存狩りの米兵も段々と範囲を広げてきている。いつ死ぬか、いつ戦闘になるかわからんこの身を雑草で満たすのはなんとも寂しい。

「牛缶食ったのいつだっけ」

ふいに独り言が漏れた。

『ほ〜るどあっぷ!』

明らかな日本式英語が響く。

「川島、その登場の仕方は飽きたぞ」

毎朝、小川で出会う川島上等兵だ。

「軍曹殿はいっつもスキがありますよ〜。いつ残存狩りがあるかわからないのに」

ぶつくさ言うのも毎朝の事だ。
階級では俺の方が上だが人のいないココでは無礼講になっている。

「そういえば軍曹殿。残存狩りが段々と範囲を広げてきて3日前古賀の奴が死んだのをご存知ですか」

正直、知らなかった。

古賀といえばテリトリーでは俺の一個前にあたる奴だ。奴が死んだとなればまさに明日は我が身である。

「それは知らなかった。古賀の奴が死んだのか…」

「軍曹殿もお気をつけて。恐らく次は我々でしょうね。まっ、また何か情報があったら伝えますね。日本軍逆上陸とか(笑)」

これが、川島を見た最期になった。
川島が小川に来なくなってからと言うもの俺は例の訳のわからん草を食べながら鬱蒼とした密林の木に登り食材確保以外の総ての時間を木の上ですごすこととなった。
ここならば米兵が来てもいち早く発見でき狙撃にも最適、しかも熱帯の大きな葉がこちらの姿を隠してくれるのだ。ジメジメとした土の上よりも幾分か湿気もなく今まで長らくここに住んでいながら初めて知った体験だった。


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