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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第−2話・仁義なき恋愛〜後編》-7

「でも、あの後冷静になったら、少し不安だったんだ…人違いかもって…
ほら、あの時の疾風は眼鏡してなかったろ?」
「仕事の時はだいたい外してるんです。激しい動きで落とすといけないんで」
「そうなんだ。じゃあ、無くても大丈夫なのか?」
「日常生活は大丈夫です。ただ、板書とかが少しぼやけて見えるんで掛けてるんです」
「へぇ…」

そう言うと千代子は疾風の顔をしげしげと見つめた。

「あのさ…疾風、ちょっといい?」

疾風がいいと言う前に千代子は疾風の顔に手を伸ばし、眼鏡を取った。
疾風の顔は黒縁眼鏡によって、柔和な感じになっている。
だが、それが外された今は鋭い双眸が露になり、心成しか、イメージもシャープなものに変わる。

(やっぱ…かっこいいなぁ…)

眼鏡を持ったまま、千代子はぼんやりと疾風の顔を眺めた。

「いきなり、どうしたんですか?」

疾風は不思議そうに聞いた。

「疾風…コンタクトにしないの?」
「コンタクト…ですか?」
「そうコンタクト」
「便利だとは思うんですけど…目の中に物を入れるっていうのがどうしても怖くて…」

千代子は一瞬、呆気に取られた。冗談かと思ったが、疾風の口調は真剣そのものである。
銃や極道を恐れぬ男がコンタクトを怖がっている。
それを千代子は少し滑稽で、少し可愛いと思った。

「でも…」

外した方がかっこいいぞ、と言おうとしたが、千代子はその言葉を飲み込んだ。
照れくさかったからではない。
このギャップを誰にも知られたくないと思ったからだ。
あまり目立たない者が実はかっこいいという事実を、自分だけが知っている。
そう思うと優越感が生まれると共に、側にいられるのは自分だけのように感じる。

「でも…やっぱ、疾風は眼鏡の方が似合うな」

自分の前以外では、外して欲しくない。
そんな乙女心を薄い胸に秘めて千代子は言った。

「だから、薄いは余計だあ!」

ギャフッ!!

「全く…」

ち、千代子は手をパンパンとはたいた。

「そろそろお暇しますね。長々とすみません」
「あ、あぁ…」
「じゃあ、さようなら」

疾風が背を向ける。

「あ、あの…」

千代子は思わず声をあげた。


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