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夢の雫
【ファンタジー 恋愛小説】

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夢の雫2-6

月は雲に隠れ、星が照らす僅かな光が手入れの行き届いていない不恰好な芝生に降り注いでいる。
病院内の植え込みに隠れながら、重田とほのかはこの病院の唯一の出入り口である門を見張っている。
出入り口が一つと言うのは幸運だったと思う。見張るとこが少ない分、二人という少ない戦力を分断せずに済むからだ。
「なあ、前から疑問に思ってたことなんだが」
「何?」
顔を出入り口の方向に向けたままほのかはめんどくさそうに答えた。
「お前何者なんだ?何で裕介を助けようとしてるんだ?」
「警察よ。犯罪者を捕まえに来たの」
「なら何でお前一人なんだ?人数が多ければ多いほど捕まえやすいだろうに」
「あたし一人で充分だから」
「その割には、俺がいなきゃどうとか言ってなかったか?」
「念のためよ念のため」
それが嘘だと重田でも気付けた。
さっきまでとは明らかに違う、痛いところを突かれたそんな気持ちが滲み出ていた。
「こう言いたくは無いが、それ嘘だろ」
しばらくの沈黙。
虫のいない冬、車の通りの少ない病院前の道。
音、一つしない、居心地の悪い空間だ。
「今巨大な結界が張られてるの。この神前市には」
堪忍したようにほのかは口を開いた。
とても寂しげに、今宵の冬の空のように。
「それは昨日の神山がやられる7、8時間前だったかしら。神前市に行った人間が帰ってこないって通報があったの。しかもそれが何件もね。それで警察は二週間前から続く連続殺人と関連づけて神懸りの仕業って結論づけたの」
「つまりそれで派遣されたのが神島ってことか?」
「そう、言ってみれば捨て駒よ。様子がわからないからとりあえずお前行けってね」
ふふっと悲しげにほのかは笑う。
おかしくなどはない、ただ笑ってしまえば何もかも冗談で済まされる、そんな気がしたのだ。
「警察は唯一のあたしの居場所だった。家でも学校でも虐げられてきたあたしが唯一必要とされる場所だったの。
まあそれでもこれが必要とされる結果、と言ってしまえばそれまでよね」
何故だか言葉がぽろぽろと毀れ出た。
ずっと溜まっていたのかもしれない。
自分を取り囲む不安や、悲しみ。そのすべてを聞いてもらえればすべて消えていく気がした。
「それでもあの男を倒せば戻れるんだろ」
「おそらくね。でもあたしが捨て駒であることは変わらない」
ほのかの顔を電灯が照らす。
光と影、両方がその美しい顔を幻想的に写し出していた。
重田がもうほとんど感じることの出来なくなった現実感はついに完全に失われてしまったのかもしれない。
「でもそれって、捨て駒ってほどなのか。ここに派遣されるってことは?」
慰めるつもりで重田は言った。
慰めるのは、別に重田はほのかに好意があるとかそういうことはない、ただ重田は他人が悲しんでいるならばそれを慰めてやろうとする当たり前の道徳は身につけているだけだ。
それに借りがあった。沈んでいた自分を慰めてくれたという。
「この結界はその原因の何かを解決するまで破れないのよ。極端な話二度とそこから出られないかもしれない。
そんなとこに向かわせて捨て駒以外に何だって言うの?」
慰めるのは失敗だった。重田は話下手な自分自身を呪った。
重田は頭を巡らせ、慰めの言葉を探す。


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