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毎日考。
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毎日考。-2

私たちには他に選択肢がなくて、別にケッコンに夢もなくて、でもきっとこれは必然なのだ。
さっきからすすっているハーブティーは、カフェインが入っていないらしい。
ずっと紅茶ばかり飲んでいたら、最近彼に取り上げられた。
いつも飲んでいた黄色いパッケージの安いティーパック。
でも実は、ちゃんと美味しい紅茶は、見つからないようにいろんな場所に隠してある。
机の引き出しとか。
本棚(この本棚は、扉がついていて中が見えない)とか。
クローゼットとか。
炊飯器の中とか。
小さな紅茶の缶が入る、あらゆる場所に。
こっそりと。
だから、誕生会では美味しい紅茶が飲めるのは当たり前なのだ。

先週の誕生会は、高校生のときの担任の先生の誕生日で、もちろん本人なんていない。
私と、彼と、彼の友人。
たっぷりの温野菜と冷たい果物、美味しいドーナツと紅茶、バニラのアイスクリーム。
これさえあれば、立派なパーティーができる。
彼の友人が、立派な胡蝶蘭を持ってきてくれた。
誕生会だからって言う理由。

やっぱり紅茶の方が美味しい。
お気に入りの、ウェッジウッドのアールグレイ。
ふわっと立つ湯気が白く揺れる。
ぼやっとしている内に、だいぶ日が傾いてきた。
部屋に差し込む光が長い。
近くにある小学校のチャイムが聞こえて、少しして子どもたちの喚声が聞こえてくる。
真っ赤な夕焼けが綺麗なこの街の風景は、なぜだかとっても寂しくて、子どもたちがたくさんいて、その声がよく響く。
小さな、ぺとぺと、という足音までしっかりと聞こえる。
ケッコン、したら、ニンシン、して、あんな小さな足音を追いかけるようになって、ママ、とか呼ばれて、その内お母さん、になれるんだろうか。
私には無理な気がした。
いつもやわやわと暮らして、その日を過ごしている私には思い通りにならない子どもは育てられない気が―むしろ確信が―する。

彼は、世に言う常識人で、でも決して人を偏見したりしない、受容の人なんだと、言われている。
こんな私とケッコン、してくれるんだからきっと、その通りなんだろうと思う。
夕焼けはいつのまにか、深い夜になっている。
今日も、甘く緩やかで、幸せな1日だった。
あったかい紅茶が、体に沁みていく、じんわりとした熱が手のひらから、心にも沁みて、やっぱり幸せだと思う。

明日も、あさっても、しあさっても、ずっと、ずぅっと、こんな日常が続けばいい。
たっぷりの温野菜と、冷たくした果物、美味しいドーナツ、あっつい紅茶、香りの良いバニラのアイスクリーム。
それさえあれば、私は生きていける、と思う。
その横に、きっと彼はずっと寄り添ってくれるだろう。
彼はいつも、確定した出来事だけを、大切にする。
いつも、必ず。

窓の外はすっかり夕闇に包まれていて、それぞれの部屋の灯りがあまりにも優しい。
玄関の開く静かな音がして、彼がいつも通り、ただいま、と言う声が聞こえた気がした。
そしていつも通り、さわっと毛布がかけられる感触も。


帰ってきて、彼女に毛布をかけてから、湯船に熱い湯を張る。
温度は42℃。
決して変えないルール。
習慣。
彼女がほんの僅かに飲み残したマグカップのお茶を口に含むと、止めたはずの紅茶だった。
上品な香りが口に広がる。
愛しい彼女は、やっぱり彼女のままだった。
こんな細やかで幸せな毎日が、ずっと続けばいいと思う。
俺は、冷めた紅茶を真っ白な胡蝶蘭の根元に注いだ。
彼女の周りには、暖かい空気が漂っている。
そんな俺たちの、日常。


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