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『二月二十八日の憂鬱』
【青春 恋愛小説】

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『二月二十八日の憂鬱』-1

二月二十八日。
オレ達はいつものメンバーでいつもの行きつけのカラオケBOXではしゃいでいた。
違うな。オレを除いて−だ。
いや、別に朝飲んだ賞味期限二日切れの牛乳が当たって腹が痛くなったわけではなく、今日のめざましTVのカウントダウンハイパーの占いで、おうし座が最下位だったわけでもない。まして、十四日前の例のチョコの日は男同士で唄い過ごし、コンビニやカラオケの店員にお互い不憫ね…と同情で貰った、チロルチョコを唄いながら貪っていたわけ…じゃないと信じたい。
ふいに隣のツレが少し心配してか、
「ほら、お前も何か入れろっ」 と言うが、オレはまだいいと、目の前のジュースを口に流し込んだ。
原因は解っていた。自分がなぜテンションが上がらないかを。
今日は、二十八日。
オレ達が通う学校はついさっきまで予行演習をしていたのだ。
卒業式の。

オレは見た目背が高く、目も一重のせいか目付きも悪いらしく、初めて見た人には気が強そうだと思われがちらしい。
それが自分的には嫌で、去年まで家にいた兄貴が同じことを思ってか、何かの通販で「これを続ければあなたも二重に!」というありきたりな文句に惹かれ購入した二重マシーンをこっそりと使っていたが、一週間もしない内にやめた。
そんなこんなで、まだ見た目気が強そうだね、が継続している。
が、それは見た目であって、実はそれほど怒りやすいとかあっけらかんとはしていないし、オレのクラスに多い−我先ダ、とりあえずキレとけ−精神は一切持ち合わせておらず−お先にどうぞ、とりあえず知らんぷり−の生粋のA型なのだ。
つまり、人一番に心配性で。
だからだろう。今こんなにも胸が締め付けられるような自分がいるのは。

カラオケBOXの中、少し落ち着かせようと耳を澄ます。と聞こえるのは、バリバリのロックやらヒップホップ。
それを皆踊るようにノリノリに熱唱していたり、次の歌を選曲している、卒業生。
なんで?
どうしてコイツらは、明日の最後の日を気にはしないのだろうか…。
もう、クラスのみんなとは学校であいさつしたり、授業中に騒いだり、一緒に先生をいじったり。それが三月一日を迎えると出来なくなるっていうのに。
オレはふと、この中で時間が止まって、出れなくなればいいんじゃないだろうか?そうすれば変わることなく、せめてこいつらとずっと唄っていられる。
と馬鹿なことを思う。
だけど、もし神様がいるんだったら今のオレの願いを叶えてくれたんじゃ、と微かに希望を抱き見た時計はやっぱりカチコチと止まってはくれなかった。
けど、
「…寂しいね」
ぼそっと。当然まわりには聞こえない、完全に回りの音に掻き消されるような声。だけど、その時確かに時間が止まったように、オレだけには聞こえるような声がした。
オレは隣に座る、女の子を見る。
そうすると、彼女はこちらにゆっくりと振り向き、微笑んだ。
ドキッとした。いつもの状態のオレだったら顔を真っ赤にしていただろう。だけど、今は彼女の言葉が気になった。
「…そうか?」
嘘をつくオレ。男がそうもいきなり、寂しいなんて言ったらどうかと思われると感じたし、何より彼女の本心を聞きたかったから。
彼女は「うん」と続けた。
「うん。寂しいよ…だって、離れ離れになっちゃうんだよ。もう、学校であいさつをしたり、授業中に騒いでる…を見れないし、みんなで先生をいじったりもできないから…」
同じだった。
彼女の口から出た言葉はオレが想っていたのと同じで、しかも寂しいとも言ってくれた。


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