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サクラサク-乙女心とコーヒーと-
【幼馴染 恋愛小説】

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サクラサク-乙女心とコーヒーと--1

「折角高校入学したのに、なんでまだ勉強しなきゃいけないの〜……?」
机につっぷしてうだる私の頭に、ぺし、とさしたる衝撃を持たない一撃が落とされる。
「学生なんだから勉強するのは当たり前だろう」
「……今時そんな事言うの、貴仁くらいだ……」
「希少扱いで結構。ほら、試験問題の用紙を出して。ちゃんと答え書き込んであるか?」
「はあい」
渋々起き上がって、「桜井美緒」と表紙に殴り書きしたその小冊子を取り出す。
それを受け取りながらも尚も椅子に座ったままの幼馴染―「梶原貴仁」―に
冷ややかな視線を向ける事も勿論忘れない。
そんな視線は何処吹く風、とばかりにペンを片手に問題用紙を眺める。
私の睨みに気付いているのかいないのか……いや恐らく気付いているんだろうけど。

参考書など何も見ずに、その問題用紙に次々とペンを走らせる秀麗な姿。
きっと大学でも相当人気があるんだろうな、と手元のコーヒーをすすりながらふと考えた。
5歳っていう年の差を感じたことは、実は余り多くない。
でも何だかこういう時は、微妙に気になってしまうのも事実。
うーん……やっぱり気にしてるのかな?私。

ふと目を向けた先には、貴仁のコーヒー。
砂糖とミルクをたっぷり入れた私のコーヒーと違って
そのコーヒーは深くて真っ黒い湯気を揺らめかせていた。

そのカップに手を伸ばして、恐る恐る中の液体に口をつけてみる。
途端、舌に刺す様な苦味が奔る。たまらず顔を歪め、そのカップを手放した。

「ブラックは駄目なんじゃなかったのか?」
相変わらず問題用紙から目を離さずに、貴仁が口を開く。
でもその言葉の中には、明らかにその瞬間私を見ていたという証。
「ちょっと貴仁の気持ちになってみたかっただけ」
だからちょっとだけ素直になってみる。
素直じゃない表情筋は、拗ねたような顔を作っていたけど。

ふ、と上がった視線が私の視線と絡み合った。
その目元が、その口元が、余りにも優しげな微笑の形をとっていたから。

慌てて目を伏せる。
キシ……と椅子から上がる僅かな音に、耳が、心臓が、反応する。
火照り始めた自分の頬を誤魔化す様に、再び自分のカップに手を伸ばす。

その手に、手が重なった。

ひんやりとした手が、意思を持って私の右腕を捉える。
もう片方の手は、私の火照りを冷ますかのように頬に添えられていて。

でも知っているよ?
その手は私の火照りを冷ますために、そこにあるんじゃないってことくらい。

「俺の今の気持ち、教えようか?」
意地悪に、でも優しく囁く声。
私は返事の代わりに、そっと目を閉じた。


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