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電車
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電車-1

ガタン、ゴトン。


電車の揺れというのは不思議なもので、目を瞑ってその揺れを感じていると、ちょっとしたカーブでも、ぐるっと大きく曲がっているように感じたり、果てしなく上っていったり、下っていったりしていくように感じたりするものだ。


毎日毎日、朝と夜、決まった時間に電車に揺られて、家と会社を行き来する日々だ。前進も後退もない。ただ、一日の決められたメニューを黙々とこなしてゆくだけ。まるで時刻表どおりに動く電車のよう。そうやって私は与えられたこの人生を同じ色で塗り潰していくのだ。


ガタン、ゴトン。
ガタン、ゴトン。


すっかり暗くなった藍色の空の下、こうこうと蛍光灯を灯して、電車が走ってゆく。それぞれの人が、それぞれの人生を送る中で、それぞれの思いを抱きながら、それぞれのわずかな時間をこの四角い箱の中で共有している。長い道のりの通過点でそれぞれの人生を持ち寄って、この小さな空間に閉じ込める。ひとりひとりに生まれて死んでいくその人生があるのに、だれがどんな過去を歩んできてどんな未来に進んでいくかなんて誰も知らない。ただ、少しの間同じ空間に存在を共有して、別れてしまえばすぐに忘れてしまうひとたち。

窓に映る私のやつれた顔の向こうで景色が右から左へとすごい速さで流れてゆく。

ガタン、ゴトン。


目をつむる。


今日も一日がおわっていく。違う一日を送ってきた人たちが唯一この時間、この空間で、この感情を共有している。それがひどく愛しく、そして可笑しいことに思う。


それも、いつものこと。


ガタン、ゴトン。
ガタン、ゴトン。


ガタン、ゴトン。
ガタッ…

ふいに体を浮遊感が襲う。

重い目蓋をゆっくりあけると、街の灯りが遥か下へて遠ざかって小さくなっていく。街を照らす電灯たちもずっと下の方で点になって、地上に散りばめられた星空のようだ。目線を上げると今度は本物の星空が少しだけ近づいている。遥か地上と天空の間で星の光を乱反射しているような幻想的な風景。今、分厚い雲を突き破って遥か銀河の先へと電車は向かう。

そうだ。私は抜け出さなければいけなかったのだ。あの排気ガスが漂い人工物であふれる窮屈な日常から。私はようやく長い眠りから目が覚めたのだ。ひどく大事なことを忘れていたような気がする。今までいったい何をやっていたのだろう。


青白く照らすあの丸い月がだんだんと間近に見えてくる。


さぁ、行こう。銀河の果てのターミナルへ。


奮い立つ心を落ち着かせ、あの青い星を振り返る。あの地上からはこの蛍光灯の描く軌道が流星のように見えるのだろうか。

そして私は、この先の旅に備えて、再びゆっくりと目蓋を閉じた。


ガタン、ゴトン。


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