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堕天使と殺人鬼
【二次創作 その他小説】

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堕天使と殺人鬼--第10話---2

 咄嗟に晴弥は、自分の首筋に手を当てた。冷たい金属の感触が掌に伝わって来て、自分も例外ではないことを思い知らされる。晴弥には、事態が全く把握できなかった。なんだ、一体、何が、何があったんだ――?
「これは……」晴弥はゆっくりと、美月を見た。自分の顎が、だらしなく垂れ下がっているのがなんとなく分かった。「なあ、俺らって移動したっけか? て言うか――」
 美月は顎を少しだけ引いて、晴弥の言葉に耳を傾けている。
「修学旅行の栞にさ、首輪を付けなくてはならない、なんて書いてあったっけ?」
 晴弥を見据えていた美月が、目を閉じて静かに、否定の意味をこめて首を左右に動かした。そうだよな――そう言ったつもりだったが声に出なかった。
 背後で誰かの、うっと言う呻き声が聞こえた。それが合図だったかのように、次第に小さな声が所々で囁かれるようになった。
 晴弥が再び背後に振り向くと、数名のクラスメイトがぼんやりとした目付きで上半身を起こし、誰もが焦点の定まらない瞳をして周りを見渡している。状況の不自然さに、さっぱりお手上げ、と言った様子である。その中に、眉を釣り上げている都月アキラ(男子九番)や、飛鳥愁(男子一番)の肩を揺すっている沼野遼(男子十一番)と言った親友たちの姿を見つけた。
「アキラ――」
 晴弥は美月の手首を掴むと、急いでアキラのもとに駆け寄った。途中で金沢麻也(女子三番)がむくりと顔を上げて小首を傾げながら瞳を浮遊させていたが、気付かなかった。
「晴弥……、林道……。」
 こちらに気付いたアキラがぼんやりと晴弥たちを見返して、呟いた。そして、それでようやく気付いたのだろう――晴弥と美月の首辺りを、目を見開いて凝視した後、慌てて自分の首筋に左手を差し込んだ。彼は自分にも同じものが巻き付けられていると知ってぎょっとしたに違いない。問い掛けるように見つめて来たが、晴弥は肩を竦んでみせるだけだった。
 アキラが両手を使って首輪を弄り始める。かちかちと金属が音を響かせるが、それだけだった。アキラは、溜息を吐いてから諦めたように手を離した。
 この時には、もうすでに大半のクラスメイトが目を覚ましたようで、辺りは騒然としていた。至る所から、どうしたのか状況を問い掛ける声や、何があったのか話し合う声が聞こえて来る。――ねえ、ここはどこ?――いつ、移動したんだっけ?――どうして寝ていたの?――おい、お前のその首の奴、なんだよ?――やだ、なんか変だよ――
 しかしその中でも、飛鳥愁の声はいっそう大きく響き渡っていた。
「なんだよっ、どうなってんだよ!?」
 愁のすぐ近くには沼野遼がいたが、彼は別に誰に言うでもなく怒鳴り散らしている。
「愁! おい、愁っ!」
 必死に遼が愁の肩を抑えて宥めているが、全く彼が冷静になる見込みはない。
 アキラが急に立ち上がって、「行こう。」と言って来たので晴弥はその後ろへ続いた。
 美月がここで、本来自分がいるべき女子主流派の面々が集まっている場所へ走り去った。何気なくそこへ視線を移してみると、堤見響子(女子九番)が半ばヒステリックに、女子学級委員長でリーダーの草野香澄(女子四番)を問い詰めているようだった。麻生美奈子(女子一番)が必死で間に入って彼女を止めている。
 晴弥は響子の様子に少々驚いたが、すぐに自分が今一番すべきことを思い出して、視線を逸らした。
 走り寄ろうとする晴弥たちの存在に、愁と遼は気付いていないようだった。「ふざけんじゃねえぞ!」と叫んで、教壇へ走って行く愁を、遼が追い掛けた。急に走り出した愁と遼を、晴弥たちが追い掛け、今まで話し込んでいたクラスメイトたちが話すのを止めて、何事かと振り向いて来る。
 愁が邪魔そうに教壇を押し退けた。次に彼が向かったのは、教壇のすぐ近くの入口だった。ノブに手を掛ける――ガチガチ――開かない。両手で揺さぶる――ガチガチ――開かない!
「ちくしょう! 誰かいんだろ!?」
 目の前のくぐもった硝子を、両手の拳で何度も叩き付ける。「開けろよ! 畜生っ、開けろ!」ドアが定期的に、くぐもった鈍い音を三度鳴らした。――ドンドンドンッ!
「愁っ!」
 遼が愁の腕を掴んで引き寄せた。突然のことにバランスを崩した愁は遼の胸に倒れ込み、顔をしかめる彼の細い肩を、都月アキラが掴んで揺する。「愁!」
 肩を竦めて愁が一瞬だけ、動きを止めた。


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