淫靡女教師猥雑肉欲妄想絵巻-1
世間はゴールデンウィーク。しかし誰もが休日とは限らない。
マック（西日本ではマクド）のバイト。警察官に消防士。観光地のドライブインで、名物のとろろうどんを作っている岡本さん。たまたま岡本さんだけが固有名詞だが、特に理由はない。
さて、静奈川県立、沼浜高等学校にも、祝日返上で仕事をしている女教師がいた。
大山桃子。26歳。独身。賞罰なし。
現在の勤務先である沼浜高校卒業後、私立静奈川女子大文学部英文科を、本人の結婚式の際にのみ「優秀な」と言われるであろう成績で卒業。父がこの沼浜高校の校長と詩吟仲間だったという微妙なコネを活かし、崇高な理念をもって英語教師として教鞭をとって5年目になる。
なお、彼女の崇高な理念とは「県立高校の先生ならリストラも倒産もない」という、非常にシンプルなものである。
既往症なし。顔の作りは芸能人の誰ソレというより、父にそっくりだと言われる。ホントに良く似ている。で、桃子の父は誰に似ているかと言えば、渥美の寅さん似だ。B×W×H、凹凸なし。特に見るべきものなし。
女教師といえばメタルフレームのメガネという風潮が一部で浸透しているが、桃子は両眼とも視力は1.2。極めて健康である。
ファーストキス、大学2年の時、友人と行った北海道で知り合った自称大学院生と。
夜の民宿で開催された王様ゲームの「2番と4番がキスっ！」で、桃子が4番だったのだ。2番の彼が教えてくれた電話番号は、当時も今も、現在使われておりません。
初体験、大学3年の時コンパで知り合った野口クンと。その日のうちに。
行為の後、桃子は眠れずにシーツを首まで（胸で止めるとずり落ちてしまう）上げ、寝たふりをしていた。とても眠れなかった。
朝になって、かび臭いホテルの一室で野口クンは目覚め、携帯を取り出した。
小声の会話が聞こえた。
「もしもし…？ おう、俺。やっべェよ、昨日アレから記憶飛んでよ、…なんか大山がいるんだよ。そう、大山桃子。ラブホでよ。…いや、全然記憶ないんだけど。…ヤっちゃったっぽいんだよね。…マズいよなぁ、マジで…」
それ以来、野口クンは「テキーラ絶ち」をしたと風の噂で聞いた。桃子とは卒業まで目を合わすことさえしてくれなかった。
以上が桃子の男性経験。
なお彼女の長所として、髪質が良く、枝毛もできにくいという点が挙げられる。が、それは美容院で褒められるだけの長所である。
趣味は読書と映画観賞。『ブリジット・ジョーンズの日記』は良かったなぁ。なんか感情移入しやすいんだよね、うんうん。
祝日にも関わらず桃子が職員室にいるのは、もちろん仕事だった。
急ぎの用事があるわけではない。
沼静高校では祝日でも土日でも、若手の教員が交代で、毎日職員室に詰めるのが決まりだ。
平穏無事の安穏とした一日。もうすぐお昼。一人きりの職員室。コンビニのツナサンドとペットボトルのお茶。至福。
桃子は友人と騒ぐより、一人でいるのが好きだ。授業は苦手ではないけれど、同僚や、教職員組合の会合で会う同世代と話すのは苦手。
職員室から見下ろすと、グラウンドで野球部が練習をしていた。
（やはり十代の男子高校生の、溢れんばかりの性欲は、スポーツで解消するべきなのだろうか）
ぼんやりと考える。
自らの性体験は少ないものの、というより、だからこそ桃子は書籍に雑誌、映画にビデオ、そして最近では元々軍事目的のために生まれたインターネットの世界から、多くの性的知識を得ていた。四十八手ならイラスト付きで説明可能。『カーマ・スートラ』と『O嬢の物語』は英語版で読んだ。
26歳としてはかなりの性の求道者っぷりである。ただし知識の入手経路が偏りがちで、しかも間接的なため、どうも同世代の女性と話題が合わないという問題もある。
さらに加えれば、過去に男性性器に触れた桃子の身体器官は、内性器の粘膜および、外性器のわずかな面積のみである。唯一の体験相手である野口クンのすら、握らず、口も付けずだった。そんな余裕も、時間もなかった。
だからその部分の触感が分からない。細部もよく思い出せない。
もったいない。桃子・青春の心残り。
（きっと男子高校生がスポーツで汗を流すことで、フロイトの言うリピドーが昇華されるに違いない）
「うおぉす」とも「せあぁ」とも聞こえる掛け声を上げて走り回る野球部の生徒たちを窓から眺める。
桃子はスポーツにうとい。不得意だ。むしろ敵視している面もある。
（昇華されるということは、あの男子生徒の精嚢に納まる何億もの精子は、マスタベィション、あるいはセクスによって放出されるのではなく、運動時にカロリィとして燃焼させられてしまうのだろうか）