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■LOVE PHANTOM ■
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***君の青 E***-5

 なんと、時計の縁とベルトの部分には何羽もの鳥の絵が掘られていたのだ。
 「へっへー。いいでしょう。青い鳥をイメージして作ってもらったんだよ」
 雫は横から自慢げに言った。
 「これを、この人が?」
 「うん。それにほら、この真中の彫刻、よく見てよ。誰かに似てない?」
 僕は彼女に言われるままに視線を落とした。
 確かにそこには誰かの顔を掘り込んでいるようだ。僕は目を凝らした。
 明かりが弱いため、影が出来て見えにくい。少しずらすと影が消え、よく見えるようになった。そしてそれが視界に飛び込んできた時、
 「あ!」
 と、図らずも声が漏れた。
 「分かった?」
 つかさず雫が訊く。僕はかくかくと頷いた。なんと、そこに掘られていたのは 幼い頃の雫と僕の姿だった。
 「・・・すっげぇ」
 こんなしわばかりの、細く、弱々しい老人の両腕からこんなにも力強さを感じる作品が生み出されるなんて、誰が考えるだろう。老人は照れくさそうに笑うと、紙袋からもう一つ何かを取り出した。
 「あ、写真」
 雫はそれを受け取ると、それを僕の目の前に泳がせた。そこに写っていたのは、紛れもなくこの時計と同じ顔をした、僕ら二人だった。雫はそれをパーカーのポケットにしまい、催促するように
 「へへ」
 と、はにかむように笑った。
 なるほど。彼女は僕にこれを買ってもらいたかったのだ。
 僕は何も言わずに頷くと、ポケットから財布を取り出した。
 「あの、いくらですか?」
 「今回のは手が込んでるからのう。大負けに負けても一万五千円かのう」
 老人は目を丸くしている僕を見ながら笑った。
 「高いんですね」 
 オーダーメイドなんだから、この値段も、まぁ、当たり前か。僕は財布の中から福沢さんを二枚取り出すと、苦笑した。財布の中が、血の通っていない肉体のように一気に冷え込んでいくようだ。
 「はい。じゃあ、これがお釣りね」
 雫を見ると、彼女は受け取ったばかりの青い鳥の時計を、まるで恋に落ちたかのようにうっとりと眺めている。ベルトの部分を指でなぞってみたり、角度を変えてみたりしては屈託のない笑顔を作っている。まるでお気に入りのおもちゃを手にした赤ん坊のようだ。
 「気に入った?」
 「うん!」
 雫はこぼれそうな瞳を輝かせながら、大きく頷いた。これだけ喜んでもらえれば、こっちも本望だ。
 僕らが店を出たのはそれからすぐだった。老人に御礼を言った後、外へ出て再びネオンの中を歩き出していた。暖房の効いた場所に長くいたせいか、外はさっきよりもずっと寒く感じる。僕が白い息を両手に吐きながら隣りの雫へ視線を向けると、彼女も同じ事をしていた。
 「さて、これからどこ行く?悪いけど金のかかるところはかんべんな」
 「もう、絆ってば本来の目的忘れているでしょ」
 「何が?」
 雫はふくれた。
 「青い鳥、どうやって探しているのか知りたいんでしょ」
 「あ、そっか」
 「しっかりしてよ、絆」
 僕の足をつま先でつつくふりをしながら、雫が笑った。僕はそれをうまく避けると、彼女の目の前にくるりと回りこんだ。
 「で、どこへ行くんだよ」
 後ろ歩きをしながら訊く。突然、雫は僕の肩をどんっと押して僕の影を追い越して行った。
 「お、おい!どこ行くんだよ」
 走り出した雫の背中を目で追いながら、僕は叫んだ。けれど彼女は僕の声に振り向くことなく走って行く。こうなったら追うしかない。


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