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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み9 〜secretly concern〜-2

 周囲をホイップした生クリームと飴細工で飾られ、ココアパウダーを振りかけて綺麗にデコレーションされた中身とろとろチョコレートの濃厚なケーキに、すっかり魅了されてしまった様子だ。
「では、冷めないうちに召し上がれ。お嬢様」
 竜彦の言葉に、美弥は潤んだ視線をフォンダンショコラに固定したままで、こっくり頷く。
「舌、火傷しないように気を付けて」
 あんまりうっとりしているので、竜彦は思わず注意を促した。
「はいぃ〜」
 美弥はいそいそとフォークを手に取り、フォンダンショコラにそっと切れ目を入れる。
 とろ〜ん、と切れ目から中のチョコレートがとろけ出てきた。
 美弥は思わず、感嘆のため息をつく。
 まずは一口分をフォークですくい、口の中へ。
「んまああぁ……」
 ただでさえ崩れていた相好を更に崩し、美弥がそう呟いた。
 いつの間にやら、シェフ二人は厨房へと消えている。
 ひたすら楽しんでいる美弥を尻目に、龍之介はフォンダンショコラを採点していた。
 自分の感想がレストランの売り上げに影響を与えるのだから、真剣なのは当然である。
「ちょっと甘過ぎかなぁ……」
「ふぉう?」
 もごもごとケーキを咀嚼しながら言われ、龍之介は苦笑した。
「ちゃんと飲み込んでから喋るように」
 注意を促すと、美弥は慌ててフォンダンショコラを嚥下する。
「私は、ちょうどいいけどなぁ」
「そう?」
 龍之介はケーキを口に入れ、肩をすくめた。
 やはり自分には、甘い気がする。
「兄さんに、教えた方がいいな」
 
 
 何種類かの試食を済ませて高崎家まで来た二人を、巴が出迎えた。
 これからお出かけらしく、もこもこぬくぬくな服装をしている。
「あら、お帰りなさ〜い。ちょうどいいとこに来たわね」
 にっこり微笑んだ巴は息子の肩を叩き、伸び上がって何事かをその耳に囁いた。
「戸締まりする手間が省けたわ。留守番お願いね〜」
 それから、巴は夫を呼ばわる。
「竜臣さ〜ん。行きましょ」
 廊下の奥から竜臣が返事をして、玄関までやってきた。
「じゃ、ごゆっくり」
 どことなく意味深な台詞をのたまわった竜臣は、巴と一緒に外へ出ていく。
「部屋、行こうか?」
 上着を脱ぎながら、龍之介が言った。
 その頬が赤いのは、寒さのせいだけではない。
「ん」
 意図に気付かない美弥は頷いて靴を脱ぎ、高崎家に上がろうとする。
 すかさず龍之介は、客用のスリッパを出した。
「先行ってて。飲み物、何がいい?」
「ん〜……あんまり甘くないのがいいな。甘いのは、もう十分」
 スリッパを穿きながら、美弥は答える。
「了解。それじゃ、お茶……紅茶、持ってくよ。母さん秘蔵のオレンジペコがあるんだ」
 悪戯っぽい口調を含ませて、龍之介はそう言った。
「うん」
 思わず、美弥は笑ってしまう。
 ――勝手知ったる何とやらという事で、美弥は龍之介と別れて部屋まで行った。


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