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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み 〜Obstacle Girl〜-6

「体見せてくれた時さ……ほら、凄く興奮してたじゃない?なのに私の事を気遣って、色々してくれて……最初は慣れないから、ちょっと痛かったけど、ね」
『あ……今はもう慣れたけど』と付け足して、美弥は照れ笑いをした。
「美弥……」
疼きのような甘い喜びが体を駆け巡って、龍之介は思わず美弥を抱き締める。
「ち、ちょっとこんな所で……!」
じたばたともがく美弥を、龍之介はさらに強く抱き締めた。
「嬉しいから……止められないよ」
「龍之介……」
抵抗をやめ、美弥は抱擁に身を任せる。
龍之介がストレートにぶつけてくる愛情は、全て受け止めてあげたい美弥だった。
と、その時。
「あーらあら。お熱いわねぇ」
龍之介は慌てて抱擁を解き、声のした方を見やる。
「笹沢さん!?」
笹沢瀬里奈が、そこにいた。
どう見ても高校生にはふさわしくない、毛皮のコートを纏っている。
化粧も金と時間をかけたこってりメイクだし、美弥と同い年にはとても見えなかった。
すっぴん顔に薬用リップを塗っただけのノーメイクな美弥は、それだけで気後れしたくなる。
「き、奇遇ねぇ」
それでも空元気を出して美弥が挨拶すると、瀬里奈は鼻を鳴らした。
「ねえ、龍之介君」
瀬里奈に名前を呼ばれた龍之介は、ばりばりと腕をさする。
どうやら、ジンマシンが出たらしい。
高校生らしくない豪奢な服装が、恵美を思い出させるせいもあるのだろう。
「頼むから、名前で呼ばないでくれる?美弥以外の女に名前で呼ばれると、気持ち悪いから」
龍之介の突き放した言い方に、美弥が驚いた。
普段から女子を邪険に扱う事のない龍之介が、彼女に対してはえらく素っ気ない態度を取ったのである。
「あっら……保健医には、龍之介君って呼ばせてたじゃない」
また名前を呼ばれ、龍之介は腕を掻きむしった。
「あの人は遠縁に当たるし、昔から色々と相談に乗って貰ってる。そういう人と親しくも何ともない人を横に並べて比べようなんて、思い上がりもはなはだしいね」
「あ、そう」
形良く整えた眉をきゅっと吊り上げて、瀬里奈は言う。
「龍之介君たら、せっかくこのあたしが告白してあげたのにねぇ……その乳臭い子の、何がいいわけ?」
その言葉に、龍之介はあっさり返した。
「その高慢さがない所が魅力だね」
「龍之介……」
美弥は龍之介を止めようとして、その手を軽く握る。
二人の舌戦は、見ていて楽しい物ではない。
「……ごめん」
控えめに諭された龍之介は、すぐに喧嘩を買うのを止めた。
「こんな下等な口喧嘩を買うのは、時間の無駄遣い以外の何物でもないや」
龍之介はひらひらと手を振る。
「それじゃさよなら。『カップルクラッシャー』」
嫌みを付け足して、龍之介は言った。
これ以上瀬里奈と係わり合いになりたくないという事を示すように、美弥の手を引いてさっさと歩き出す。
「待ちなさいよッ!!」
瀬里奈が後ろから、二人を掴んだ。
「何よそのカップルクラッシャーって!?」
龍之介はしれっとした顔で言う。
「割といい男に女が付いたと見れば、男に言い寄って来てその仲を引き裂いた揚げ句、即座にポイ。それが常套手段だからって、ついたあだ名がカップルクラッシャー。男の間じゃ、かなり有名な話だよ」
美弥には初耳の話だった。
「実際に君は僕と美弥が付き合ってるって噂が広まり終わった頃から急に近付いて来たし、わざわざ人の事を呼び出して告白してくれたし……」
その直後に降り懸かったトラブルのおかげでうやむやになっていたが、『フラれる自信はない!!』と言わんばかりの瀬里奈の告白を、龍之介はきちんと断っていない。
「ちゃんと言ってなかったから、この場で言わせて貰うよ。端的に言えば、君とは付き合えない。僕は美弥以外の女の子に名前で呼ばれるとジンマシンが出る程気持ち悪いし、浮気する趣味を持ち合わせてもいない。何が面白くて人の仲を引き裂いて回ってるのか知らないけれど、係わられるのは迷惑以外の何物でもないよ」
普段の柔らかい物腰が綺麗さっぱり消えてしまった龍之介の態度に、美弥は目を丸くする。
おそらくは瀬里奈から恵美と同じ匂いがするので、余計攻撃的になっているのだろうが……。
「行こう、美弥」
「う、うん……」
その場に瀬里奈を置き去りにし、二人は歩き出す。
後にはただ、唇を噛み締めた瀬里奈だけが残された……。


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