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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み 〜Obstacle Girl〜-11

「……今まで以上にモテるようになるわね」
美弥の言葉に龍之介はきょとんっ、とした目付きになる。
「モテる?僕が?」
「モテないの?」
くいっと甘酒を飲み干し、龍之介は頷いた。
「声かけられたの、笹沢さんくらいだけどなぁ」
「……他に何もなし?」
「いや……知らない人からメールが来たり、一人で歩いてるとやたらに話し掛けられたりするけど……そんなの、あるでしょ?」
「モテてるわよっ」
自覚ゼロな龍之介の台詞に、美弥は思い切りツッ込む。
「それ全部、女の人からでしょおっ?!」
「うん」
「龍之介とお近づきになりたくて、そういう事してるのよっ」
「へ〜、そうなんだぁ」
「なんでそーゆーとこは朴念仁なのよ……」
思わず美弥は脱力した。
「でもなぁ……浮気なんかしたくもないし万が一その気になっても気持ち悪くてできないし、僕がモテようがモテまいが関係ないんだよなあ」
龍之介がそう言う。
「…………ほんとにぃ?」
「真実です」
二人はじっと目を合わせ……同時に吹き出した。
「ま……信じておきましょう」
「ありがとうございます」
いたずらっぽい口調で言い合うと、二人は焚火を離れてお守りやおみくじを売っている一画へ移動する。
「あ、いーなぁ」
「どれ?」
「これ」
美弥が手に取ったのは、色とりどりの衣装を着込んだ紙製の小さな人形だった。
衣装の色によって効果に違いがあるらしいが……美弥が手に持つ人形は、落ち着いた色合いのピンクをまとっている。
龍之介は、値札の脇にある一覧を見た。
「……恋愛成就?」
「うん。龍之介と一緒にいられますように、って」
何となく複雑な心境に陥った龍之介へ、美弥は照れも気負いもなくそう言う。
途端に複雑さも吹っ飛んで、龍之介はにやにやしてしまった。
「あ」
龍之介は美弥の手から人形を取ると、売り子をしている巫女さんへ代金と共に差し出す。
「はい」
紙袋に包まれた人形を、龍之介は美弥に手渡した。
「……って、悪いよぉ」
買わせるためにねだった形になってしまい、美弥は慌ててそう言う。
「このくらいでそんなに恐縮しなくても……あんまりプレゼントとかした事ないし、さ」
「でも……」
なおも渋る美弥に対し、龍之介は囁いた。
「受け取ってくれないならこの場で捨てるよ?」
「ありがたくちょうだいシマス。」
人形を両手で包み込み、美弥は笑顔を見せる。
「ありがと」
「どういたしまして」
「……あ!龍之介は?欲しいのあったら、買うよ?」
虚を突かれた龍之介は思わずお守りを見回し……一つを手に取った。
「それね?」
美弥は龍之介の手からお守りを取り、代金と一緒に巫女さんへ渡す。
「はい」
「って、これじゃあ……」
美弥は微笑んだ。
「分かった?」
「……ハイ。」


お守りを手に、二人は神社を出た。
初詣も済ませたし、後は家に行ってまったりしようという事で既に話が纏まっている。
元旦から営業している商売っ気のある所はコンビニやデパートくらいだし、そのデパートは初売りで殺人的な混雑具合だろうから、行くだけで疲れる。
同じ疲れるのならばおうちでいちゃいちゃしようと、口には出さねど意見は合致していた。
――のだが。
「……によそれっ!!」

バシンッ!!

思い切り頬を張る痛そうな音が路地脇から聞こえて来て、二人で顔を見合わせた。
『……?』
視線を合わせ……こっそり足音忍ばせて、二人は現場を覗き見る。
「ッ……もういいわよッ!!別れてッ……あげるわよおッ!!!」
ド修羅場、佳境。
「!!!」
思わず大きな声を出しかけた美弥の唇を、龍之介は慌てて塞ぐ。
化粧をぐしゃぐしゃに崩して泣いているのは、笹沢瀬里奈だった。
その傍らには片頬を赤くした、ロマンスグレーという言葉がぴったり来る中年の男性。
「……済まない」
男性はそれだけ言うと、瀬里奈に背を向けて歩き出す。
そして、二度と振り返る事はなかった。
いきなり出くわした泥沼の修羅場に、二人は呆然として立ち尽くす。
「……どーしよ……?」
「あー……様子見、しよう……笹沢さん、危ないし」
「うん……」
首を突っ込まなきゃ良かったと心の底から後悔しつつ、二人は瀬里奈の様子を伺った。
しばらく泣いていた瀬里奈は不意に顔を上げ、ずんずんと歩き出す。
――こっちへ。
慌てて二人が逃げ出そうとした時には、瀬里奈は二人に気が付いた。


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