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魂の願い
【ファンタジー その他小説】

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魂の願い-3

先ほど家を出るときも誰も涙を見せることはなかった。満月の晩に死ぬ運命だと知っていたから。その死はエルイタルをエンター家を繁栄に導くものだと狂喜していたから。 だからグルリッシュ自身も自分の死を嘆くことはしなかった。栄誉ある死。これ以上の誇りがどこにある? でも、ここにいる幼馴染は心からグルリッシュの死を悼んでいた。大粒の涙を流していた。 自分の考えは間違っていたのか?妖夢の巫女に捧げられることを本当に望んでいたのだろうか?当たり前だと思っていた誇りは紙のように薄っぺらいものだったのか? 足元から崩れていくような自信の喪失。これから『本当に』死んでいく自分の運命を改めて思った。 死ぬ。 僕はあと半月で死ぬ。妖夢の巫女に食べられて死ぬ。 死んで何が残る?−−−誇りだ(違う)。贄としての栄誉がある(違う!)。エルイタルに永遠に刻まれる名が残る(そんなものいらない!!)。エルイタルを繁栄させるための貴重な贄(僕は望んでいない!!)。 −−−僕は、死にたく、ないんだ。 グルリッシュは自分の中の本当の気持ちを知った。驚愕する。僕は死にたくない? 「僕は死にたくない」 声を聞いた。誰の声だ? 「僕は死にたくない」 聞きなじみのある声。これは−−−僕だ。 「僕は死にたくない!」 グルリッシュの悲痛の声にジェフカーンは驚いた。死にたくないって? 「僕だって生きていたい。僕だって生きて、泣いたり怒ったり笑ったりしていたい。風を感じていたい。日光を浴びていたい。僕の本当の望みは−−−皆と生きていくことなのに・・・!」 「グルリッシュ・・・」 「僕だって死にたくない、死にたくないんだ・・・!!」 心臓が裂けるような叫びを聞いてジェフカーンは後悔した。 誰も好きで死にに行く訳じゃない。生きていたい。けれどそう願えば願うほど悲痛で心は張り裂けそうになる。自らを抑えつけて運命だと諦めさせることで、どうにか心の均等を保っていたのだ。自らの死期を知って嘆かない人間がどこにいる?グルリッシュも例外ではない。自分を『贄』として見ることで存在している価値を見出していた。 「ジェフ、ごめん。僕もう行かないと」 遠くで鐘が3つ聞こえた。もうすぐ夜が明ける。 「ジェフ、ありがとう。僕のために涙を流してくれたのは君だけだ。僕はそれだけで満足だよ。出来れば僕のことを覚えていて。グルリッシュ=エンターという男の短い人生を。そうすることで僕は救われる」 立ち上がり二人は握手を交わした。長く力強い握手を。 マントをなびかせてグルリッシュは丘を去る。 二度と戻ることないソージュの丘を。 生涯の友のもとを。 <終>


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