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堕天使と殺人鬼
【二次創作 その他小説】

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堕天使と殺人鬼--第3話---3

 続いてその通路を挟んで隣の席へ視線を移す。特定の友達もグループも作らず誰とでも程々に仲良しの上野佳苗(女子二番)と、クラスでは孤立している釣り目が特徴的な美女、戸岸由奈(女子十番)が二人並んで座っていた。なんとも奇妙な組み合わせだと晴弥は思った。
 戸岸由奈は、クラスで一、二を争うほどの美女であるのだが、人と接触するのを拒んでいるのか、誰とでも仲良しの上野佳苗や、誰にでも平等の金沢麻也がいくら話しかけてもツンとして全く耳も貸さない少女だった。その為、初めは交友関係を築こうとした佳苗や麻也も、三年になった今はほとんど話しかけることもなくなっていた。
 その由奈と佳苗が一緒に座っているのだ。しかしながら、佳苗はクラスで特定の友達がいるわけでもなく由奈に関しては言うまでもないので、恐らく余り者同士ということなのだろう。晴弥の思考はそう結論付けられた。
 その時、晴弥の席からはやや後ろの、最後尾周辺から馬鹿でかい笑い声が響き渡った。思わず、耳を塞いでしまう。晴弥の周辺で談笑していたアキラたちも、何事かと後ろに振り向いた。
 その周辺では、クラスの不良グループの面々が集まっていた。男子不良グループのパシリである古宮搭太郎(男子四番)と、不良だが意外と好印象な橘兵介(男子八番)、学校一の美少年と評判の鞠名充(男子十六番)が、お茶目なグループのお調子者、渡辺昌明(男子十九番)をからかって遊んでいる。その様子を見て女子不良グループの、身体の大きな佐草麻奈(女子五番)や、色黒でオシャレが大好きな永田玲奈(女子十一番)が甲高い声で笑い転げている。
 先ほど紹介した、男子不良グループのまとめ役的存在である大場冬文や、永田玲奈の恋人で格好よさ気な名波一夜(男子十番)、小柄な体型の千田禀(女子八番)、背の高い冷めた印象の藤丸さやか(女子十四番)も彼らのすぐ近くにいるが、止められないのか困ったような表情を浮かべているのがよく分かる。
 ちっ、と愁が舌打ちをしたのが聞こえた。まずい――と、晴弥は思った。愁が、キレかけている。
 中間派のグループに所属している晴弥は、比較的男子全般と仲が良く冬文等のグループとも交友があったのだが、実は最近ほんの少し距離を置き気味になっていた。
 理由は、晴弥と同じ中間派グループで飛びぬけて冬文たちのグループと仲の良い愁と遼が、彼らと距離を置き始めたからである。二人のお陰で向こうのグループとも仲が良かったと言っても過言ではない晴弥にとって、その二人がそこと距離を置いたのは影響が大きかった。
 そう例えば、こんなことがあった。去年の二学期の話である。
 恐怖の中間テストも終わり誰もが少々気を抜いていたそんな頃のこと――愁が昼休みになっても戻ってこないことがあった。その日愁は、冬文等のグループ数人と体育の授業をサボり、人通りの少ない運動部合宿所の裏で煙草を――そう未成年者使用禁止の煙草を吸っていたらしいのだが、普段は滅多に教師たちの通らないその場所で、学校でも怖いと有名なサッカー部の顧問、窪塚先生に運悪くも見つかってしまったのだと言う。窪塚先生が彼らに気付く前に慌てて冬文たちは逃げ出したが、何かの拍子に愁だけ遅れ、まんまと捕まってしまったらしい。
 幸い、内申書に響いたことと、何発か思いっきり殴られて強制的に家に帰されることくらいですんだのだが(中学校は一応義務教育なので、停学や退学というものはないのだが、その日、愁の自宅には担任の遠山先生と学年主任の吉田先生が来たらしいが、愁の家は母子家庭で母親は夜遅くまで仕事をしているため、会えなかったようだ)、戻ってきた愁を誰もが心配そうに見守る中、奴――鞠名充はこう言ったのだった――「愁ちゃんとっぽいねー。煙草見つかって家帰されちゃうなんてさ」
 そういう充こそ、その場にいてまんまと逃げたくせしてよく言えたものだ。危うく衝突するところだった。喧嘩っ早い愁と一度キレたら手の施しようがない充、周りは冷や冷やしたものである。まあ、充以外の面々は皆愁に頭を下げたのだが(特に冬文と名波一夜は冗談抜きで土下座する勢いだった)。
 しかしまだこれだけなら愁と遼が距離を置いたことには繋がらない。鞠名充とはともかく、他の者とは和解したのだ。そもそも、人よりも理解力があり人をあまり拒絶しない遼が、くだらない男子生徒一人に親友を侮辱されたと言う理由で距離を置くのはあまりにも不自然だ。実はまだ、他にも理由があった――クラス全体が関わってくる事件が起きたのだ。


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