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宿命
【ファンタジー 官能小説】

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宿命-3

―…
―ガチャ
「…。」
一週間前と何一つ変わらない家の様子。
時計は5時を指している。
(兄貴は…まだ寝てるか…)
人が動いてる気配がまったくない部屋の中。兄貴に見つからない事にホッとし、二階に上がった。
細心の注意を払い、階段を上る。
「ッ!!」
部屋の前に黒い塊…。正直ビビった。
「兄貴…何してんの?」
「んぁ…?」
兄貴が俺の部屋の前で寝てた…。
「お〜…雅人か…。おはよ…」
「はよ…」
兄貴はう〜んっと大きく伸びをして、大きく欠伸をした。
「一週間ぶりか…。飯食ってたか?」
「まぁ…」
兄貴はいつになく優しくて、俺は夢を見ているのかと思った。
「痩せたな…」
兄貴は俺に手を伸ばす。
「俺…」
「今までどこいたんだよ…。お兄ちゃん心配してたんだ…よ!!」
―ドスッ
「うッ…」
シュッと風を切る音がしたかと思うと、俺の腹に鈍い痛みが走った。
「もう…気がすんだか?」
「てぇ…」
「いい加減帰ってこいよ…」
「…んで…何で兄貴は平気でいれんだよ!!」
「…」
「俺ら人間じゃねぇんだよ!?血を吸わなっきゃ死ぬんだよ?!何で…俺は…普通に生きたいのに…」
そうだ…。俺は普通に生きたいだけなんだ。普通に学校に通って…普通に彼女作って…普通に友達とつるんで…普通に結婚して…幸せな家庭作って…子どもがいて…。
「…人間に…なりたい…」
「…お前さ…」
兄貴は毛布を畳みながら、俺の隣に座る。
「俺らがそんなに人間と違うと思ってんのか?」
俺は兄貴の目を見れない。
「姿形も人間と変わらないし…。ただ、血を吸って生きてるって事以外、何一つ変わらないんだよ。」
兄貴は俺の頭をぽんっと撫でた。
「お前は…自分が吸血鬼だって事だけで、人生を諦めるのか?お前の人生はお前だけのものだろ!!」
その時、俺はちゃんと兄貴の目を見た。
全てを受け入れた目だった。
兄貴もきっと見えない所で悩んでいたんだろう。
「…俺は…自由に生きていいのかな…」
兄貴の目を見ていたら、今までヘソを曲げていた自分がガキくさく思えてきて、涙が出てきた。
「あぁ…お前の人生だからな…」
兄貴は俺を抱きしめてくれた。大きくて、温かかった。


―…
「行ってきま〜す」
あれから俺は、きちんと学校に通い始めた。「おっす、雅人」
「はよッ」
友達もできて、毎日が楽しい。部活にも入った。それはバスケ部なんだけど…練習は厳しいし、休みもないけど、前よりも有意義な時間を過ごしていると思う。
「パス回せッ」
「雅人ッいけ!!」
―シュッ
「よっしゃ!!」
「ナイッシュ〜、雅人」
「イェーイ」
今までセックスでしか汗を流していなかったけれど、スポーツで汗を流すのも悪くない。
兄貴には彼女ができた。月下っていう、血色のいい子。
「雅人くん、部活忙しそうだね〜。」
「んん。ヤバイ忙しくて死ぬ…。月下が癒してくれたら、俺元気になるよ?」
「なんだそれッ。」
「雅人ッ、月下に抱きつくなよ」
「ちぇ〜ッ」
兄貴が月下と付き合うようになってから、前よりも優しく笑うようになった。月下の側にいる兄貴は、本当に幸せそうで、俺も嬉しい。
吸血鬼の宿命からは逃れられないけど、その宿命を受け入れる事でどうとでも生きれるんだなと思った。
もうガキみたいに家出なんてしない。
兄貴が救ってくれたこの命を精一杯生きようと思う。
笑う事が楽しいのは、生きてるから。
宿命なんて糞くらえ。俺は俺なりに、自分の人生を生きてやる。
それが一番だろ?
な、兄貴。
〈完〉


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