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自分の中の自分、他人の中の自分
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自分の中の自分、他人の中の自分-1

 自分の中の自分、他人の中の自分、どちらも自分には変わりは無いのだと思う。
 人は皆、一人一人が自己であり、個人なのだ。だがしかし、人の数だけ自分と言う存在の記憶があるように、今までに出会って来た全ての人の中に、自分と言う人間の記憶がある。
 それは確かに自分ではあるのだが、等しく自分と言う者の本質が、等しく伝わっていることはないだろう。
 つまり人の数だけ自分と言う存在がそこにはあり、自分とは複数なのである。
 では此処にいる自分は誰なのだ! 自分とはいったい誰のだ! 本当の自分とは、はたして……何なのだ。


『そんな人だとは思わなかった』


 彼女はそう言って、大粒の涙を流しながら私の前から走り去った。
「おい待てよ! 恵子っ! 俺はただ……」
 ただ……何なのだ。
 私は、自分の気持ちが正確に彼女に伝わらないことに苛立ちながら、それでも、それが自分のせいなのか、そとも……彼女が私と言う存在の捕らえ方が、間違っていたのか…… そんな事を考え、その場に立ち尽くして、泣きながら走り去る彼女を追おうともしなかった。


 お互いに愛しているはずなのに、本当に心のそこから愛しているはずなのに、そんな気持ちが伝わらない。


 それは私自身にも言えることなのだろう。
 彼女の事は何でも知って居る。笑った顔、怒った顔、そして泣いている顔……
「なんでも知って居る…… 笑わせるんじゃないっ!! それは私が勝手にそう思っているだけの事じゃないのか! 私が勝手に思い込んだ、恵子の姿なだけなのでは、ないのか!!」
 自分で自分に怒鳴り掛けてみる。反論する者など誰も居ない。
「何とか言ったらどうなんだっ! 自分自身なんだろっ! お前は私であって……私はお前のはずじゃなかったのかっ!」

 
 そんな人とは思わなかった。


 そう…… 彼女の中にいる私は決して怒鳴ったりしない。いつも紳士で、けして彼女に涙など流させる存在ではない。
 では…… 私は誰なんだ! 此処にいる私は私では無いのかっ! 彼女はいったい今まで誰と付き合っていたんだ!!

 
 そんな問いかけにも、彼女の中に居る私が答える事はないだろう。
 勿論、私の存在を否定もしないだろう。
 だが奴は…… 奴は確かに彼女の中に存在する。そして彼女は、そんな彼女の中の私を、今も追いかけているのだろうか。
 そう思うのは、私の中に居る彼女の思いで有って、その彼女の中に居る自分への彼女の思いなのだろうか。


 私と言う存在は、私を知る人の数だけ居る。そして彼らは皆、別人なのである。
 そして、そんな彼らが私の中にも居て、その中にも私が居る。


 自分の中の自分。他人の中の自分。そして……自分の中の他人の中の自分……


 いったい……私は 誰なのだ…………


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