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ヴァンパイアプリンス
【ファンタジー 官能小説】

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ヴァンパイアプリンス8-1

今日、12月25日、クリスマスに、2人はデート。あまり人混みの中を出掛けるのを好まない2人だが、今日は特別。目的はただ1つ。
「何の映画なんだろうねぇ」
そう、例の結から貰った映画の無料チケットを使うためだ。
2人はショッピングを楽しんだ後、カフェに立ち寄った。
月下は先程からチケットを光に翳している。雰囲気の良いカフェの暖かな光に思わず目を細めた。
「…タイトルも書いてないし…」
そのチケットは…チケットらしくない。
なぜなら、真っ黒な台紙には、紫色の『invitation』の文字と真っ赤なバラのみ。
一見、映画のチケットには見えないのだ。
「…んあ。」
月下が裏をめくると、映画館の指定と期間の指定、そしてメッセージが書かれていた。
『Dear Lovers
愛し合うお二人に幸多からんことを…
今宵の宴、心行くまでご堪能ください。』
月下はふ-んと言葉を洩らして、まだ温かいミルクティーに口をつけた。
「ねぇ、月下」
「ん?」
「この後どうする?映画の時間までまだちょっとあるけど」
チケットに記された時間までは、あと1時間あった。
「う-ん…ここにいようか。」
ここは暖かいしね、と月下は言う。
「え?買い物しか行ってないのに、それでいいの?これじゃあいつものデートと変わんないじゃん。」
「いいの、いいの。こういうイベントに宏樹といれるだけで、あたしは嬉しいからさ。」
「…そっか」
ちょっとだけ照れくさくなって、宏樹はコーヒーをすすった。
「あ、じゃあさ、クリスマスらしくイルミネーション見ながら行こう。」
「うん。そうしよう。」
向かい側に座る月下に、オレンジ色の光が落ちる。
カップを持つ細い指にシルバーのリング。自然と顔が弛む。
「どうしたの?宏樹」
月下は不思議そうに首を傾げたが、宏樹はただ微笑むだけだった。
それから他愛ない話をし、月下がガトーショコラを食べ終えたあと、2人は席を立った。
「寒い〜」
カフェを出た途端、冬の寒さが身に染みる。ほっぺ痛い〜と肩をすくめながら、月下はごく自然な事のように宏樹の手に指を絡めた。
「…。」
たったそれだけなのだけれど、宏樹は嬉しくて、胸が熱くなった。
「わ!!凄い綺麗だね!!」
と、月下の目が感動に染まる。彼女の視線の先には、大きなツリーに色とりどりのオーナメント。電飾が何とも幻想的な世界を演出する。思わず足を止めて見入ってしまった。
「…すごッ」
あまりにも浮世離れの美しさに溜め息が洩れる。
「本当にね」
「…綺麗だ」
「うん!!」
本当は、柔らかなライトに照された彼女に向けて言った言葉なのだけれど…彼女は見事に勘違いをしているようだ。
(まぁ…確かにイルミネーションも綺麗だけどさ)
キミの方が綺麗だよ、と言ってみようか。
そうしたらキミは何て答えるだろう。
イルミネーションに見とれている月下は、宏樹がそんな事を考えているなんて夢にも思わないだろう。
暫く2人は大きなツリーを見上げた。
「…っくしゅ!!」
「…そろそろ行きましょうか。お嬢さん」
「…はい」
大事なお嬢さんに風邪をひかせるわけにはいきませんからね、と宏樹は言った。
宏樹は月下と繋いだ手をそのまま自分のポケットに仕舞う。
「ありがと」
照れ隠しのためだろうか、月下はマフラーに顔をうずめた。
「どういたしまして」
宏樹は律儀にそう返し、映画館へと足をすすめた。


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