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ヴァンパイアプリンス
【ファンタジー 官能小説】

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ヴァンパイアプリンス4-1

「あぁぁ〜…」
月下は気の抜けた声を出して、机の上に伏せた。
「まだ逢ってないの?」
「うん…」
月下は、結に頭をそっと撫でられた。

新学期が始まって、三日。月下は新学期が始まってから一度も宏樹と話していなかった。その理由は『文化祭』である。

「水無月くんは実行委員だもんね。」
結は、月下の手に握られている黒い布を取った。
「うん…。すごく忙しいみたい。」
「顔合わす暇もないのか…。」
結は黒い布を自分の肩にかけ、紐を結びながら言った。
「うん…。逢いたくて死ぬし…」
「ふふッ」
「…何?結ちゃん」
結は月下の髪をくしゃと再び撫で、嬉しそうに笑った。
「髪くしゃっちゃったよぉ〜…って何で笑顔?」
「ん〜?だって…夏休み前はさぁ、彼氏の事で悩むなんてなかったじゃん。」
「…まぁそうだね。」
「子供だってずっと思ってたけど…ちゃんと大人になってんだなぁって。」
月下は、思いがけない言葉に目を丸くした。
「ちゃんと女の子してるじゃん。きっと水無月くんが月下を変えたんだね。」
「あたし変わった?」
月下は体を起こした。
「うん。いい女になった。」
月下は大きい目を更に大きくした。
あまりにも聞き慣れない言葉で、理解できないのだ。
結はそれを悟って、また笑った。
「ははッ」
「!?何で笑うのよぉ!?」
「あはははッ!こりゃ水無月くん、大変だなぁッ」
「は!?」
月下は何が何だかさっぱりわからなかったが、自分が笑われている事を悟っていた。
「ふふッ…でも女らしくなってるのは本当だよ。」
結は、月下の膨れている頬をつねりながら言った。
「いひゃい…」
結はにこっと笑って、月下を立たせた。
「水無月くんは、たぶん…生徒会室にいるんでしょ?」
「んん。」
月下は大きく頷いた。
「行ってきなよ。」
「え?…でもマント終わってないし、宏樹の邪魔したくないし…」
結は自分から黒のマントを外した。
「コレなら、あたしがやっておくよ。あと、水無月くんも月下に逢いたいんじゃない?」
月下は困った顔をした。結は月下の背中をそっと押す。
「水無月くんのためにも、傍にいてあげてよ。逢えない事が一番辛いと思うけど?」
「結ちゃん…うん!じゃあ行ってくる!」
月下は走って教室を飛び出した。
「逢いたいなら逢いに行けばイイのに。お互いが遠慮してんだから。」
結は椅子に腰掛け、針に糸を通した。
「…当分は帰ってこないだろう。」
結はせっせとマントの続きを縫い始めた。

―…
広くもなく、狭くもない静かな教室に宏樹はいた。
「え〜っと…展示の範囲はっと…」
ここは生徒会室。文化祭の間は実行委員が管理している。
宏樹の前には山積みの仕事。そして机の上には大量の栄養ドリンクの空瓶が転がっていた。
「…月下ぁ〜…」
宏樹は眼鏡を外して、机の上に伏せた。
「…逢いたい」
宏樹は、逢いたくても逢えない愛しい人を思い浮かべて目を閉じた。
「はぁ〜」
宏樹からでるのは、ため息ばかり。
―トントン
「ん?」
宏樹はドアのノックの音で、体を起こした。
「誰だろう?」
―ガチャ
「水無月くん。」
「井上さん!」
ドアを開けると、そこには実行委員長の三年井上亜梨沙がいた。
「どうしたんですか?」
「うん…。あたしの仕事終わったから、水無月くんの手伝おうと思って。」
「……(はぁ!?)」
宏樹は耳を疑った。
井上は自分より多くの仕事を担当しているはずなのに…
宏樹の頭の中は尊敬と驚きの感情がぐるぐる回っていた。
「…どうしたの?」
「あ、いえ…」
「…ふふッ!自分より仕事多いのに…って思ってるでしょ?顔にでてるよ〜」
「あ…」
宏樹は図星を突かれて苦笑した。
「…あたしにとっては最後の文化祭だから…やっぱりイイものにしたいの。」
井上は椅子を引き、宏樹の隣に座った。
「よいしょっと。さ、早く終わらせよう!」
「すいません…」
宏樹は何だか申し訳なくなって、井上に頭を下げた。
「ううん!頭上げてよ!ほら、サクサクやちゃおう!」
「はい。…俺も、協力しますから!イイものにしましょうね!」
「水無月くん…ありがとう。」
井上は宏樹に満面の笑顔で笑った。
―…
『早く宏樹に逢いたい。』
月下はそんな思いで、廊下を走っていた。


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