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雪の舞散る世界
【初恋 恋愛小説】

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雪の舞散る世界-2

朝会で先生によってさっきの女生徒はクラスの転校生だと知らされると、僕は不思議と心が踊った。
名前は一条優子と言う。

彼女はあたかも底無しの闇に無二の火を灯す燭台のような……。
 今思えばこれが『初恋』だった。よく覚えてはいないが一目惚れというのも加味していた気がする。今日は転校の手続きと教室を確認するだけで帰ってしまったが、僕はとにかく明日からの学校生活が楽しみでしかたなかった。

 家に着き、夕食中に見ていたテレビは全く聞こえなかった。就寝時に脳裏に焼き付いた彼女の笑顔を思い出しながら、僕は布団を目深にかぶって長い一日を終えた。


次の日、一条優子は一番前の教卓に近い席に座らされていた。僕はすぐにでも彼女に話しかけたかったが、実際はどんな話していいかわからず、放課後掃除で顔を合わせても容姿端麗、才色兼備で他の女生徒とは明らかに毛並みの違う優子にどう対応すればいいのか迷った。

そう現実は上手くは運ばなかった。

 結局僕は一番後ろの席から、時々見せる優子のあの愛らしい笑顔を眺めているだけの日々を送った。

 七月になり、夏空の眩しい日差しが教室に広がり始める頃。プールの授業が始まった。その際、去年とは異なり男女別々の教室で着替えを済ませるということだった。
 そんな時、ヒロキが女子の更衣を覗いてやろうぜ。などと性懲りもない事を提案してきた。やめておけば良かったのに、普段からつるんでいる仲間だったので断るのも不自然だと思い渋々了承した。
プールの授業の前、女子が着替えに使う図工室の小窓から、僕らは注意深く中を覗き込む。だが、ほとんどの生徒が既にプールに向かった後だった。

「げげ、牛蛙しかいねえぞ」
ヒロキは残念そうに呟いた。
一組の中で誰よりものろまな女子がいたのだが、そいつのあだ名が牛蛙だった。彼女は水泳をやればかなづちで、マラソン大会ではいつもビリだった記憶がある。
 当時このクラスで牛蛙と言われていた愚鈍な女子が、今では僕の妻となっているわけだから運命とはわからない物だ。

 とにかく僕とヒロキは諦めてプールへと向かった。
僕は優子を覗いてやろうという悪戯な好奇心もあったが内心、教師に見つかった時の代償を考えるとホッとした気分になった。

優子と何の進展もないまま夏休みが訪れた。木々に留まったセミ達の声が幾重にも重なり、僕は夏特有の杞憂さを感じつつ、ラジオ体操なんかサボって悠々と過ごしていった。


 夏が終わり、色褪せた葉が木々を被い、秋雨が滴る十月の日のこと。

 その日、予報通り下校時には雨はどしゃ降りになっていた。委員会の仕事を終えて教室から僕以外の人影が消えた頃、帰宅支度を始めていると持参したはずの傘を忘れたことに気づいた。
 しだいに教室の窓から稲光が射し込み、僕は一刻も早く家に帰りたかった。

 何気なく廊下の傘立てを見てみると一本の青い傘がポツンと、気配を消したようにそこに置いてあった。有情無情など関係なく心底から合掌するような気持ちで傘を拝借し、家路に着いた。

 その傘が優子のものであると知ったのは次の日の朝だった。

 傘について謝ろと言う正直な気持ちはあったが、それが優子の物とわかった時、心が揺らいだ。

卑怯。嫌い。

 公にすればそんな容赦ない言葉を投げかけられるのではないか。クラス委員としての立場より、優子との冷えた関係を恐れた。

 何故傘に書かれた名前の存在に気づかなかったのか、別に走って濡れて帰っても良かったのに……。僕は冷徹する事で始めて自らの愚行を悔やんだ。

その日は恐ろしくなって、優子の青い傘を靴箱の狭間に隠して家を出た。


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