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Mirage
【純愛 恋愛小説】

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Mirage〜4th.Weakness-12

「悪いけど」

僕は言った。

「今年はゼミの運営についてのミーティングやらバイトやら就活やらでやることが多いからな。ちょっとばかり無理やな」

「嘘やろ」

予め用意しておいた答えに対する香奈の声は尖っていた。

「あんたは今年の夏なんてバイトぐらいしかやることないんやろ?単位もほとんど安泰やし、ゼミの合宿にも参加しない。夏休みの課題レポートもとうの昔に終わってる」

違うか?と香奈の目が言っていた。さらに言えばバイトすら僕がいなくたって問題は無い。

僕は一つ舌打ちして目を逸らした。

「どういうことや」

「あんたと同じゼミやって子から聞いた。こんな眼鏡の変な喋り方する女の子」

後半の部分は両手で丸を作って眼鏡を表現しながら、香奈は言った。完全に高末のことだ。けけけ、と頭の中で高末が笑う。それにしてもキャンパス内で自分の弟のことについてそこら中の学生を捕まえて情報収集している実の姉の姿を想像すると哀しくなる。

僕は一つ舌打ちするとくしゃり、と前髪をかき上げた。そんなところで、そろそろ髪を切らないとな、と場違いなことを思う。

「香奈が二人になんて言われたかは知らんけど」

逆立った前髪をそのままに、僕は口を開く。

「俺は帰らへん。そう伝えて」

香奈は俯き、前髪を垂らしたその奥でため息をついた。何かを考えているようではあったが、さらりと下がった栗色の帳の向こう側をうかがい知ることはどうやら出来そうも無い。

「わかった」

姉は頷いて顔を上げ、立ち上がった。何も言わずにハンドバッグを掴み上げ、出口の方へと向かう。僕もそれを何も言わずに追う。

玄関でミュールを履き、出て行く瞬間に彼女はぼそり、と言った。大きくも、そこまで明瞭な声でもなかった。それでもその声ははっきりと僕の鼓膜を震わせた。

「あんたはそろそろ、自分を許しなさい」

彼女は言った。いつもの彼女とはあまりに異なる口調。

思わずドアが閉まる直前に目を見開く。

そこには僕より頭一つ小さいくせに、三歳年上というだけでいつも大人ぶる理不尽な女の姿は無かった。

等身大の姉。

じゃあね、と最後に呟き、優しく微笑んだ彼女は閉まるドアの向こう側へ消えていった。


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