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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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パシリと文学部と冷静男-5

 さらに運悪く、栗花落が崎守の声に反応してそちらに顔を向けたのは同時。半ば自分からぶつけるようになりながら、振り向きざまの額に缶が命中して大きくのけ反る。
 しかし一瞬で復帰し、宙を舞っている缶をキャッチしつつ、
「くぁっ……! お前は毎回毎回、僕に何か恨みでもあるのかっ!? 買ってきたものをぶつける確率八割超えだぞ!」
「い、いえそんな!」
「おでこが鍛えられていいのではないですか?」
「阿呆か。だったらお前もぶつけられてみろ!」
「いえ。わたくし、まだ嫁入り前の身ですので傷物になるようなことは。それに幸一郎さんと違って御脳の配線がズレたら非常に困りますので」
「くっ、お前はいちいち腹の立つ言い方を。貰い手のつかなそうなぶッ飛んだ脳のくせに……」
「あー、女の子にそんなこと言っちゃダメだよ! 思いやりの欠けらもないんだねっ」
 こんなときばかり常識を振りかざされて、栗花落は頭痛を感じた。文句のひとつでも言おうかと思ったが遠矢が、
「気を回さなくてもいいんですよ大宅さん。別に一生モノの心の傷として悲しみながら生きていくだけですから。ええ、幸一郎さんはわたくしが失意の内に人生を終えようと、決して気にすることはないですよ」
 遠矢のどこか陰のある微笑に場がざわついた。
 毎度思う。こいつら解っててやってるな、と。本当に遠矢の言を信じていたらそれはそれで問題だし。
 いいかげんにしろと声を大にして言いたかったが、意味が無いことは知っている。だからため息ひとつですべての言葉を流す。
 この状況の何もかもが栗花落を窮地に追い詰めていた。まったくもっていつも通りに。悲劇は予定調和に従って進む。
「……十秒前までは謝ろうかとも思ったが元気そうだな貴様」
「幸一郎さん、謝罪で済めばきっと世界は幸福ですよね。大切なのは気持ちより行動です、と言うことで何か面白いことをしてください」
「よし人の話まったく聞いてないな? 誰がお前なんかに謝るか」
「照れてないでちゃんと謝りなよー。こういうのはしっかり終わらせておかないと人格を疑われるよ?」
「黙れ。どう見ても傷ついてないぞアレは」
「むっ、外見だけで人の気持ちを決め付けちゃいけないよ。そしたらいっちーなんて世界に絶望して三秒後に死んじゃうようにしか見えないもん」
「……お前、ちょっとは相手のこととか考えたらどうだ」
「やだなぁ、そんなのちゃんと考えてるに決まってるじゃん。ただいっちーには遠慮いらないかなって思ってるだけで」
「もっと悪い」
 自分のミスからどんどん話が逸れていく。崎守は嫌な汗をかきつつ軌道修正を試みた。
「ああっ、何だか二次、三次災害が! おおおお落ち着いてくださいみなさん。恨みがあるかと聞かれれば決して否定しきれないものの、毎回たぶんきっとおそらく悪意はないはずだと思いたいですっ。ま、まあ何だかスッキリとしますし、実は体が気持ちに対して素直になって――、あ。い、今のはどうか聞かなかったことに!」
「……なるほど喧嘩売ってるのか。買わないぞ」
「ええそうしていただけると自分としても有り難いですっ!」
 栗花落はため息。崎守もため息。
 結局は崎守の自爆だったが、とりあえずは一段落ついた。
 ただ何となく楽しくなさそうな空気を感じ取った崎守は困ったような笑顔で皆の顔を見回した。
「え、えっと、おそらく暑くて喉が渇いてたからピリピリしてるんですかね? ここはひとつ、飲み物でも飲んで落ち着きましょう。部長以外はお茶でいいんですよね?」
 言いながら崎守は皆に缶を配る。
 確かに栗花落も喉の渇きを感じたためタブを開けてひと口飲み、
「ぶっ!?」
 吹いた。
「うわぁ、いっちー汚いよっ!」
 つばさと遠矢が慌てて引くが構わずに、
「な、何茶だこれ!? 未知の味がっ」
「えっと、唐辛子茶と梅茶とドクダミ茶と昆布茶に、その日の気分で一品をごちゃ混ぜにしたハイブリッド茶『5茶混ぜ』ですね。ちなみに今日はミルクティーみたいです」
 言われて缶を見れば、確かにそうだった。


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