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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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パシリと文学部と冷静男-4

「解除しろ」
「やっ――」
「まだ早くできるぞ」
 淡々と脅迫しながら、無表情に揺する。
「――――っ!」
 かくしてつばさがギブアップしたため、栗花落は解放してやり携帯を投げ返した。
「ああ、もし解除した振りだけだったりしたらもう一度……」
「わ、解ってるよっ。うぅっ、頭がグルグルする、気持ち悪いぃ。ちょっとしたサービスのつもりだったのにっ」
 頭を押さえ、ぶつくさいいながらも携帯をちゃんと操作。それをしばらく見届けてから、栗花落はため息を吐いた。
「……ったく、そんな不気味な気遣い誰が喜ぶと思うんだ」
「そうですね、幸一郎さんはムッツリですからアダルトな雰囲気のメールのほうが喜ばれますよ?」
 遠矢が真顔ですごいことを言った。栗花落は顔をしかめて、ついでに睨む。
「おい、嘘を教――」
「え、そうなの? じ、じゃあ、今度頑張ってみようかなぁ、なんて、あの、えっと……、いっちーはどうかな?」
 つばさはうつむき気味に視線を逸らして、少し頬を赤くしながら問う。
 どれだけ返答しづらい質問だよ、と、栗花落の背に暑さのせいではない汗が流れた。どんな意見を言っても色々な面でまずくなる気がしてならない。
 助けを求めて、無駄だろうなとは思いつつ原因である遠矢の方を見たが、やけに楽しそうに親指を立てただけだった。ちなみに五十嵐と長谷部は初めから眼中にない。
「おっと君たち、年長者としての立場から言わせてもらうが、青春には自制も必要だよ? 後でどれだけ悔やんでも時は戻らないからね。何かを為すときには、自分なりにどうなるかを考えたほうがいい。その答えが正しいか間違いかはどうでもいい。失敗から学べること、失敗からしか学べないこともある。人生にに何が必要になるか解らないなら、経験は多いに越したことはないからね。が、そうやって悩んで模索し失敗し反省し思考し正解して、また失敗と成功を繰り返してこそ人は育つものさ。あの時はこうして間違えた、この時はこういう部分が正しかったと。そのすべてが己の糧となるんだ」
 関心がないのか平然とした長谷部の発言に、場がにわかに騒ついた。しかし長谷部は止まらずいつになく硬い表情で、
「正解をだけ求め失敗を厭い、しかし答えが見つからないからと流されて思考を止めるのは、人として最大の悪徳だよ。もっとするべきこと、できることだってあったはずだ。だからあの時だって私は――」
「うおっ、長谷部がまともな話を。明日は雨か。これは驚きだな」
 五十嵐のわざとらしい大声に、長谷部ははっとした表情を浮かべる。だが栗花落たちからは五十嵐の体に隠れ、その変化は見えなかった。
「は、長谷部がまともなことを言ってる……!」
「初めて先輩らしいところを見ました……。人間って不思議ですね」
 好きかってに言われた長谷部が咳払いをしたあと、む、と顔をしかめた。
「待ちたまえ、なんだいその言い草は。私が皆に真面目ではないことを言ったことなど、片手で数え切れるほどしかないだろう?」
 わざとらしいため息つきで肩をすくめて、
「ま、ようするに恐れずに何でもチャレンジだ、ということなのだけどね。もちろん証拠のメールはしっかり提出するように。――おや、どうしたのかな皆、急にうつむいて」
 ちょうど静かになったタイミングで、屋上の扉が勢い良く開いた。
 次いで缶ジュースを何本も持った少年があわてた動きで飛び出し、
「ごごごめんなさい皆さんっ! 一グループの自販機を探してあちこち行ってたら遅くなりま、あっ!」
 段差につまずき、よろけた。バランスを取るために動かした手はちょうどアンダースローのようになり、缶が一本、崎守の手から抜けた。
 いい勢いで飛ぶ缶。しかも栗花落に向かって。


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